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小指をたててあなたに向けましょう
 


『君は俺の道具であって、恋人じゃない。』



受話器越しから聞こえた感情の篭らない声。

いつも嫌と言う程聞いていた楽しげな声は、
聞くたびに苛立ちしか湧いて来なかった。

少しは普通に話せないものか、と思っていた
のにも関わらず、実際聞いてみると、辛い。

状況と立場の関係もあるのか、今までの行為を
まるでなかったかのようにするような、
俺という存在否定をするなような、…そんな感じ。

ずっとずっと辛いめに遭ってきたのに。

「な…っ、だからって…、せめて謝れよっ!!」

押し殺す事のできない、胸の奥から湧き出る
よく解らない感情。

それを俺はぶつけるように、受話器に向かって
叫んだ。

声と同時に、感情から出る涙が目から溢れ出す。

それを拭う事なく、俺はあの感情の篭らない
声が受話器から聞こえてくるのを待った。

ただ、静かに。
胸の鼓動が緊張して激しくなるのを抑え。

――…しかし、聞こえてくる事はなかった。

聞こえてきたのは、電話の切れる音だけ。

「――…っ!!臨也さんっ、臨也さん…っ!!」



―――――――――――


時は数時間前にさかのぼる。

空はまだ青空を映し出していて、俺が帝人と
屋上で飯を食っている頃だった。

近くのコンビニで買ったパンを、二人で話し
ながら食べている時。

帝人がはっとした表情を
浮かべながら、俺に話題を振った。

――…それがまさかの悲劇の序章となる。

「そういや、臨也さん結婚するよね!」

俺は一瞬耳を疑った。

「……………………………………は?」
「だから、臨也さん結婚するよねって」

二回も聞き間違う事ってそうないと思う。
なら、これはちゃんと聞き取れているのか?

「結婚?」

俺は回らない頭で、聞こえた単語を繰り返す。

すると帝人はにこりと微笑み、大きく頷いた。

「そうだよ、結婚!おめでたいよね!」
「臨、也さんが……結婚?」

ここまでくれば聞き間違いなんて事が有り得ない。
臨也さんが結婚する事より有り得ないだろう。

……だけど、結婚……?

俺はどうしても結婚の事実が信じられなかった。
もしかしたら、否定したかっただけかもしれないけど。

昨日、臨也さんは毎度の事のように俺を呼び出し
何ら変わりもなく抱いた。

結婚間近で、他の人間を抱くなんて信じられない。
常識として考えられない。

「な、なぁ……帝人、それは本当か?」

俺は震える声で、帝人に聞く。

少し不信に思ったのか、帝人は密かに眉を寄せる。

「う、うん。来週の日曜にって、招待状に…」
「招待状?」
「あ、カバンの中にいれっぱかも」

―…招待状なんて、来ていない。

俺は無表情で、鞄を漁る帝人を見つめる。
ただただ、何も考えずに見つめていた。

「ほら、これだよ……って、正臣?」

俺を見る帝人と目が合う。

無表情の俺をさすがに可笑しいと思ったのか
帝人の表情まで変に曇っていく。

だけど、今は笑ってごまかせる程の気力はない。
俺は無言で、帝人の持つ招待状を取った。

……薄いピンクの、控えめに飾った封筒。
表面には丁寧な文字で帝人のフルネーム。

これはきっと、臨也さんの恋人が書いたんだろう。

俺はそんなマイナスな事を考えながら、
一度開いた封をもう一度開けた。

そして中の少し固い和紙の紙を引っ張る、

…………所だった。

俺のズボンのポケットが、着信音と共に震えた。
緊張していたのもあって、一段と俺を驚かした。

俺は封筒を地面に置き、急いでケータイを取る。

震えながらも映し出すディスプレイには、
折原臨也の文字。

「……………!!」

まさに今の話題。

俺は帝人から数メートル離れて、その電話を取った。




―――――――――


「正臣…………?」

電話を切られ、ただたたずむ俺にゆっくり寄る帝人。
俺は帝人の顔を見る事ができずに俯いた。

――…俺は、捨てられた。

そんな事実を、受け入れる事ができずに。



あれは全部嘘だった。

好きと言うあの声も、楽しそうに呼ぶ名前。
いつでも向ける笑顔も抱いた後にするキスも。

幸せそうだった臨也さんは、全部自作自演。
つまりは俺を弄んだという事。

俺は…俺は、好きだから抱いてると思ってたのに。

ただの欲求不満でも、好きな俺で解消してると、
だからずっと耐えてやってたのに。

好きでもない臨也さんを。
……好き、じゃない、臨也さん………を。







…………大好きな、臨也さんだから、耐えたのに。







「ふ、ざけるな…………っ!!!」
「正臣?!!どこいくの?!」

行くべき所なんて、ただ一つ。
俺は親友を放っときながらも そこに向かった。




―――――――――――


目の前には驚いた顔をする臨也さん。

まさかさっき電話を切った相手に、それも俺
だから来ないとでも思ったのだろう。

臨也さんはドアノブを掴んでドアを開いた状態
のまま、ただ俺をそんな表情で見つめた。

――…俺の、愛しい人。

「臨也さん。」

俺ははっきり、その名前を呼ぶ。

「何?正臣くん」

すると臨也さんはさっきの声とは裏腹に、
優しく俺の名前を呼び返した。

それに、泣きそうになりながらも、俺は言葉を紡ぐ。

「毎朝はキスで起こす、臨也さんの食べたい物は
夕飯の手作り、風呂は一緒に入るし、夜は抱きたい
時に抱けばいい。」

「…………うん」

「ちゃんと、好きって、言い返すし……っ」

知らないうちに涙が頬を伝っていた。
声も、喉に突っ掛かってうまく出てこない。

「だから、だから………っ、」

――…結婚、取りやめて。

最後の言葉が嗚咽のせいで出ない。
言わないと、行ってしまうのに。

溢れる涙を手の平で拭いながら、呼吸を整える。
しかし、焦りからか全然整わなかった。

そんな時、

「正臣くんが?毎朝キスで起こすって?無理無理」

臨也さんが、またいつもの皮肉混じりの言葉を吐いた。
俺を見る表情は、どこか楽しげで、馬鹿にしている。

「自分からキスもできないのに無理でしょ!」
「でっ、できますよ……っ!!」
「ふぅん?本当?嘘っぽいなー」

自然と返した言葉に、さらににやつく臨也さん。
逆に顔を赤らめて剥きになる俺。

「ちゃんとやるから、結婚取りやめて下さい!!」
「………………!」

俺がその言葉を言うと、臨也さんはまた驚いた
顔をして俺をまじまじ見つめる。

そのあとまた、微笑んで俺に言った。

「約束、守れるの?」

優しい声音で、そう一言。

――…手に入るなら。




(小指をたててあなたに向けましょう)


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