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ただの片思い

あけましておめでとう
陳腐な文字の陳列だと思った。それを相も変わらず性格とは正反対のむかつくほど綺麗な字で書いてある臨也さんからの手書きの年賀状をみて、何故だか泣きたくなった。別に寂しいわけではない。嬉しいわけでも、ない。

離れたのはいつだったか。臨也さんからこうやって年賀状がくるのはもう三枚目だ。ということは三年。俺が臨也さんの元を離れた白い季節からちょうど三年がたっていた。窓の外の目が痛くなるほどの白を見ながら時がたつのは早い、と考える。今年はまたあのときみたいに降る年だなんて嫌気がさしながらこたつから頭だけをだして年賀状に再び目を向けた。俺ひとりで住むにはちょうどいいくらいの少しぼろいアパートは東北のほうにある。三年前、俺は臨也さんと沙樹のもとから消えた。(なのに未だ口座には毎月、臨也さんからの振り込みがある。もちろんつかってなどいない。)場所は誰にも伝えていない。ちょうど、12月の終わりだ。その年、住居とバイトも見つかり新年を迎えた俺の元にはくるはずのない年賀状が一通届いた。差出人は、折原臨也。彼が敏腕情報屋なのは知っていたので俺の居場所を知っていることに関してはあまり驚かなかったのを今でも覚えている。ただ、こんなものか、と思った。携帯も変えた。連絡はとっていない。唯一、彼から毎年年賀状が届く。身体さえ繋げた関係はそれだけの関係に成り下がった。毎年、可愛くもない干支のイラストがプリントされたハガキに筆ペンで美しく書かれた、あけましておめでとうございます、の文字。あの人は今もあの憎い笑顔でこれを書いているんだろう。易々と想像できた。
「ばかじゃねぇの、」
涙がでてきた。別に嬉しくも寂しくも悲しくもない。でも、止まらなかった。同じく窓の外の白も止まる気配はなかった。今年は積雪らしいから、まだまだ積もる気なのだろう。どこまでも真っ白にして、冷たく凍り輝かせるのだろう。

『コタツに蜜柑とか日本っぽいよね。俺さー、雪だるまって作ったことないんだよね。一回、前後左右もわからない一面真っ白な景色も見てみたい』

「‥‥臨也さん」
久しぶりに名前を口にする。臨也さんの言葉を思い出したのは。俺がちょっとセンチメンタルになったのは。きっと。ほかの二枚とは違う、年賀状に書かれたこのたったひとことのせいだ。どこまでも、どこまでも、俺はあの人への想いを真っ白に積もらせて、寒い冬を今年も過ごすのだ。あの人が憧れる、真っ白な景色とともに。



”正臣くん、今年は特に寒いから、風邪ひかないようにあったかくするんだよ”







ただの片思い














あきゅろす。
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