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俺を誰だと思ってるの

突然、頭に鈍い痛みが走った。
正臣は激痛でゆらりと体を前のめりにする。

倒れる――寸前で何とか意識を持ちこたえた。


自分の身に何が起こったのかわからず、正臣は少し動揺する。
額から流れ出す生暖かいソレが、自分の血だと理解するのに、そう時間は掛からなかった。


「……は」


口から小さく笑いがもれる。
そして、くるりと後を振り返ると、自分の後ろにいた数人の少年たちに向かって声を発する。



「……どーゆーつもりよ?」



1人の少年――おそらくリーダーと思われる少年の持つ金属バッドには、自分の血が付着していた。

何となく、この状況を理解したつもりだ。


自分は狙われている。
昔、喧嘩か何かをして、負かした相手に。
下手すれば……殺されかけている。



「俺、今は普通に楽しくナンパな高校生やってるつもりだからさ、こーゆーことは……」

「うるせぇッ!!」



正臣の言葉を最後まで聞かず、襲いかかってくる少年達。

普段なら軽くよけられるのだろうけれど、どうも今回はそうはいかないらしい。
おぼつかない足をふらふらと動かしながら、正臣は少年達から逃げようとした。……が。

後ろから1人に腕を組まれてしまい、逃げることは不可能となる。



「はは…もしかして俺、ヤバイ系?」




場数は踏んできた……つもりだ。
けれどさすがに今回は身の危険を感じ、全身をぶるりと震わせる。

頬、頭、腹、体のいたるところに痛みを感じた。

意識が朦朧とする。
視界が霞む。



――あぁ、俺、このまま……



「やぁ、正臣君。生きてるかい?」


そう思ったとき、遠くから、ひどく澄んだ声がした。
聞きなれていて、とても安心する声がした。

ここにはいるはずのない声が……。







そこからの記憶はほとんどと言っていいほどなかった。
ただ、重いまぶたをゆっくりと開けると、眩しい光が入ってくる。


「あ、正臣君起きた」
「……臨也……さん?」



声の主の姿を見ようと、正臣は体を起こそうとする。
……が、全身に鋭い痛みがはしり、上半身を上げることすら難しかった。



「あぁ、ダメダメ。安静にしてなきゃ」
「……本当に、臨也さん……?」
「他に誰がいるってんだよ」



臨也は顔を正臣の見える位置まで移動させる。



「君さー、何やってんのさ。死ぬよ?」
「……臨也さんが助けてくれたんですか?」
「まずこっちの質問に答えようか。あと、一応答えとくと、君の質問に対してはイエスだね」
「ありがとうございます」



正臣の言葉を聞きながら、臨也は正臣の額に手をあて、前髪をそっと持ち上げながら、傷に触れる。



「いでッ!……なにするんすか!」
「バカだねって言いたいの。何?不意打ちとか?」
「……そんなところです。それより臨也さん」
「ん?」



正臣は臨也の眼を見て、ハッキリとした口調で言った。



「何で助けられたんですか?」
「何でって……、俺がアイツらより強かったから?」
「ッそうじゃなくて!なんで俺の居場所がわかったんですか!?」



思わず大声を出してしまう。
正臣はハッとして、口を両手で押さえると、睨むように臨也を見た。

臨也は不敵に微笑み、言葉を紡ぐ。



「俺を誰だと思ってるの?」



――自分だって、まともに答えないじゃないか。



正臣はため息をついて、「わかりました、もういいです」と呆れたように言う。
臨也はそんな正臣を見て、少し口元の筋肉を緩ませると、言った。



「さて、正臣君」
「?」
「君は今、動けない。ちなみに血だらけの服は洗濯機です」
「……何が言いたいんすか、臨也さん」
「君はどうやって家に帰るのかなぁ?」



意地悪く言う臨也を見て、正臣は少し悔しそうに下唇を噛む。
もう、彼に残された選択は一つしかない。



「……泊めて……ください」



正臣は臨也から視線をそらしながらそう言うと、臨也は満足そうに微笑んで、正臣の頭を乱暴に撫でる。



「ん、よろしい」
「……臨也さんて、ホント性格悪いっすね」



たまに傷口に手が当たってずきずきと痛むが、臨也のその暖かい手をしっかりと握りしめた正臣は、静かに目を閉じた。



「臨也さん……」
「え?何?」
「本当に……ありがとうございました……」



臨也は大きく目を開くと、ゆっくりと細め、正臣から手を離し、代わりに小さく口付けをした。


『俺を誰だと思ってるの』


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