夢だなんて許さない
「いざやさん、それおいしいれす、もっとください」
正臣くんが舌足らずな声で甘えるように囁いてくる。
これは──…いい!
時間をさかのぼる事3時間前
来良学園の前で正臣くんが出てくるのを待っていた。
もうそろそろ出てくるはずなんだけどなあ…
明るい茶髪が視界をかすめる
「やあ、迎えにきたよ」
俺的にすごく優しい笑顔を浮かべて両手を広げる。
正臣くんは驚きと嫌悪感を混ぜたような表情でこちらを見上げてきた。
正臣くんが嫌そうに口を開く。
「いや、頼んでないっすけ、ど」
正臣くんの腕を引っ張り抱き寄せ、更に驚いて目をぱちぱちさせている帝人くんと杏里ちゃんに視線を合わせる。
「じゃ、正臣くんは俺が持って帰るねー」
「っは!?ちょ、俺物じゃないし!離してくだ…っ?!」
とりあえずうるさい口は俺の口で塞いでしまおう。
♂♀
「ぶすっとしてないでさ」
ほら、これでも食べてと先日客にもらったチョコレートを出す。
甘いものは好きらしい。ぶすっとしたままぼいぽい口に運ぶ
「別にわざわざ来なくても、メールとか電話とか、したらいいじゃないですか」
「あれ?この間気付きませんでしたって無視したの誰だっけ?」
「うっ…」
そう、正臣くんはこの間深夜にお腹すいたなーご飯作ってほしいなーって思って[今すぐ来て]ってメールしたのに、無視したんだよね。
でも俺、正臣くんがその時間起きてたの知ってたから、問い詰めたんだけど、彼も強情だよねえ。
こんな扱いを受けたのにはいどうぞとお茶まで用意してあげる俺の優しさにも、そろそろ気付いてほしいかな?
ここで冒頭に戻る。
俺が正臣くんに渡した飲み物は少ーしだけブランデーの混ざった紅茶。それとさっきから彼が口にしているチョコレートにも、少ーしだけアルコールが入っていた。
まさか、まさかそれだけで…─
「ねえいざやさん?はやくくださいそれ」
べろんべろんに酔うなんて誰が想像しただろうか…?
「正臣くんさ…それ、本気?」
チョコレートをねだるさまは殺人的に色っぽい。
確実に今まで俺には見せた事のないような甘ったるい笑顔に、舌足らずな言葉遣い、アルコールで赤みのさした頬にうるうると濡れた瞳。
もしや、今なら何聞いても答えるんじゃないの?
「ねえ正臣くん、この間、どうして俺のメール無視したの?」
最初ぽかんとしたそのあと、なんの事か納得いったようで、うるうるした瞳で俺をじっと見つめた後顔を俯かせた。
「…だって……」
「うん」
「まよなかにいきなりよぶとか、俺、かんちがいしそうで」
「…うん?」
ばっと顔をあげると睨むように見つめられた
頬の赤みがさっきより増している
おっと可愛い。
「だって俺、」
いざやさんのことすき…と、ぽすっと音をたててしがみついてきた。
アルコールよ、良い仕事しすぎだ…!
正臣くんの顔を見ようと肩に触れたら首ががくんと落ちた。
え…
「寝て…る…?」
…………えー…
♂♀
隣で気持ち良さそうに寝ていた彼が、うんうん唸った後にがばっと毛布ごと跳ねた
「おはよ、正臣くん」
目を限界まで見開き、口も閉じきらず、目に見えて冷や汗を流す彼。
「あ、あの俺…」
「昨日の事覚えてる?」
サァっと顔を青くしてじりじりと後退していく正臣くんの体。
この反応は、確実に覚えているな
「そ、その、俺覚えてな」
「忘れたの?」
じっと見つめて出来るだけ切ない表情を作り問う
「っ!……………ぃぇ」
ぼんっと音が出そうなくらい顔を赤く染めた彼の唇を塞いだ
夢だなんて許さない
(俺以外の前でお酒飲むの禁止ね)(臨也さんの前で一番飲みたくないです…)
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