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暇なんですよ

「今日はこれを運んでね」
はい、と渡された真っ黒な革のボストンバッグはまるで目の前の彼のようであった
「二時間以内」
「わかりました」
確かな重みのあるそれは金か薬か或いは指か生首か
消して比喩ではなく何が入っているのか判らない
そんな仕事

「見たくならないの」

珈琲カップ片手に彼は問う

「見てどうするんですか」

好奇心で覗いたとして後味が悪いのは解りきっている
ふうん、と呟いた彼はまた珈琲を啜った

「行って良いですか」
「どうぞ」

雨音が聞こえる
弱まれば良いが
(これ、濡らさないようにしないと)

彼のことだ、防水加工していない筈もないがそれでも
(こんな、こんなことを)

任された上は完遂させたいと思う自分は一体

ボストンバッグを持ち、スニーカーを履く

不意に
「言わなかったね」
「は」
背後に黒
「自分に関係ないからって」
言わなかったね

にやり
薄い唇が歪んだ

「君、認識はあるんだ」
そこまで馬鹿じゃあないかと笑う彼

彼の言葉が聞きたくなくて俺は傘を掴んで飛び出した
(だって彼は知っているから)


「早く溺れ死になよ」
そうしたら
ぶん、珈琲カップを後ろに投げる
「苦しまずに逝かせてやるのにさ」
まあ彼には無理か、と呟いた独り言は破壊音に消えた

暇なんですよ
(貴方の相手をするのは暇だから)
(そうそれだけ、それだけだ)


あきゅろす。
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