ねえ聞いてよ 〜♪〜♪ ねえ聞いてよ ヘッドホンから漏れる、優しい音色。 お気に入りのロックバンドの新曲が発売されてから、その曲は見事に俺の中で大ヒットだ。 アップテンポな曲が多い中、今回のは珍しくバラードで。 ボーカルの力強く優しく儚げな声音は、歌詞と一緒に心に響き、ギターやベース、ドラム、キーボードの音がそれを崩す事なく綺麗に奏でられている。 「…はぁー…こんな恋愛、俺もしてぇよ…」 最後まで優しい音色だった曲が終わって、曲の余韻に浸ったままヘッドホンを外し首にかける。 背を凭れさせていた壁にこつん、と頭をくっつけ、思わず漏れた溜め息と言葉を吐き出して、このだだっ広い寝室の天井をぼーっと見上げる。 此処は臨也さんの、新宿のマンション。 かくかくしかじかでココに入り浸るようになってしまい、学校帰りも直でココだ。 まぁあの人が来良まで迎えに来るから強制連行だが。(来るなつってるのに) 現在臨也さんは仕事で留守だ。 今日は来良に来なかった臨也さん。 しかし学校が終わると同時に着信アリ。 どこぞのホラー映画より在る意味怖い着信だ、と一人くすりと笑いながら出ると。 「迎えに行けないから先に帰っておいて?ああ、今日はトマトソース系のパスタがいいな。じゃあね。」 一方的な言葉を聞きながら、反論する訳でも無く大人しく聞く俺。(反論こそがあの人の思惑通りになるようで嫌だから) ぶつり、と切れた電話にいつもの事だと溜め息を吐きながら、新宿のマンションに向かうべく学園から出た。 それから新宿内。 夕飯の材料を買わなきゃ、と赴いたスーパーで、あのロックバンドの新曲が有線放送で流れていたのだった。 もう本当にドストライクだったその歌詞とメロディーに、逸る心を抑えつつ、材料を買い終え、直ぐ様近くのCDショップに駆け込んで購入して…現在に至るのだが。 夕飯の材料をキッチンカウンターに放置して、臨也さんの寝室に持ち込んでいたコンポとヘッドホンを繋げる。 それからCDをセットして…もう何度この曲をリピートした事やら。 多分5〜6回、いや確実に聞いた。 それ程までに響いた曲。 もう一度聞こうかな、とヘッドホンに手をかけた所で、 「ただいま。正臣くん居るー?」 「居ますよー…ってしまった…!」 部屋の主の帰宅。 夕飯の材料を放置したままだった事を思い出し、直ぐ様寝室から出てキッチンへ向かう。 「ごめんなさい、臨也さん!今から夕飯作ります!くそ…俺とした事が不覚だった…!」 「ん?寝てたのかい?まぁ慌てなくてもいいよ?今はまだそんなに空腹じゃないし…どっちみち作るのは正臣くんだしね。」 「…アンタはいちいち癪に障るような言い方はしないでください。」 シンプルな黒いエプロンを着けながらきっと睨めば、臨也さんは楽しげに笑みを浮かべたまま肩を竦め、ジャケットを脱ぎながら寝室へと入って行った。 「さぁて…ちゃっちゃと作るか…」 袋から材料を取り出し、必要な道具類をキッチン下の棚から出して、お料理タイム。 着々と手順を完成へと進めながら、頭の中のBGMはあの曲だ。 お気に入りになった一番好きなフレーズは確か… "君とふた"… 「"君と二人 何処までも歩いて行きたいね だから僕の心 君に響くように だから僕の声 君に届くように でも今は言わないよ 僕が強くなって君を迎えに行けるまで"」 「っ?!」 「あれ?違った?正臣くんこういう音楽、というか歌詞好きでしょう?」 ばっと背後を振り返ると、ドリップしてあった珈琲をマグカップに注ぐ臨也さん。 にこりと笑って、また同じ歌詞を、一字一句間違わず、音程も外さずに歌い上げる。 「なっ、何で…?」 「寝室でずっと聞いてたんでしょ?コンポの電源入りっぱなしだったし、歌詞カードも開きっぱなしだったし。」 「いや、違くて、そこ…」 「ああ…"君が望むならこの声枯れるまで…だからねえ聞いてよ 最上級の愛の言葉を"」 緋色の瞳がじっと俺を見据え、メロディーと共に歌詞を…言葉を紡ぐ。 駄目だ、惑わされるな、こんな事、臨也さんを更に好きになってしまいそうだとか、 「あーりーえーないっ!」 くるりと背を向けてしゃがみ込んで耳を塞ぎ叫ぶ。 すると背中にのしっと重さを感じて、ぎゅっと冷たくも暖かい温もりに抱き締められて。 「ねえ聞いてよ?君を愛している俺の声、をさ…?」 耳元に響いた声音は、確かに最上級の愛の言葉でした。 もう今はあの曲が霞んでしまった。 (だって俺を包む音色は臨也さんで充分だから) END |