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見た目よりも中身だよね
「人間て、やっぱり見た目よりも中身だよねぇ。」

何の変哲も不可思議なこともない新宿某マンションの一室。窓から入る太陽光は穏やかで、気持ちのいい昼下がり。この一室の主である男がそんな言葉を唐突に空気に乗せて吐き出した。
必死にデスクワークに勤しんでいた手はぴたりと止まることはなく、黒い主人より離れた場所にいる青年は掛けられた言葉に僅かに眉を寄せた。

「何をまた馬鹿なことを言ってるんですか?」

心底どうでもいいと言う様に吐き出した言葉に、黒は愉快犯の如く笑み、手をキーボードから離し、席を立つ。そして、長い腕をふわりと肘から持ち上げた。

「いや、これは実に納得のいく理論だと思うんだよね。だって考えてもごらんよ。仮に、見た目が良い人も中身が最低な暴力男だったらどうする?例えば静ちゃんのようなね。ああ、ほら虫酸が走る。でも、見た目はいまいちでも中身が良い奴だったら?この場合は新羅に限りセルティになるのかな?俺はセルティの中身が良いなんて言いきれる程の仲ではないからね。さぁ、正臣君、君はどっちに好意を寄せる?」


呼ばれた名前と問い掛けた内容に、正臣は今度は手を止め、いつの間にか自分の横に立つ黒を見る。
そして、瞬間に理解し、その一つの結論にため息が零れた。

「臨也さん、仕事に飽きたんならそう言えばいいでしょう。」

その正臣の言葉に、臨也は相も変わらず愉快に笑み。

「さすが正臣君。ご名答。」

つと、長い腕が正臣に伸び、細長くしなやかな指先が正臣の顎に触れ、まるで褒美を与えるように臨也の唇が正臣のそれに重なり、離れる。
瞬間、正臣の内が熱に浸食され、一気に白い肌を朱に染め上げた。

「な、ななな何、を…」

慌てる正臣の耳に指先を滑らせると、耳にかかった柔らかな蜂蜜色と戯れて。

「奇しくも君の素晴らしい所は、見た目も中身も共に最高というところかな。ああ、もちろん中身はこっちも含めてね。」

悪戯に興じる右手ではない方の手が正臣の腹部、臍よりも少し上の腹筋をなぞる。
その指し示す場所は、なんとも品行を疑う。
正臣は更に肌を染め、腹部に触れる左手を払いのけた。

「最低。」

払いのけた手が正臣の払った手を取り、指と指を絡めていく。
触れる一本一本が確実に熱くなり、何故か抵抗する気を消失させていく。そんな正臣の心中を悟ってか、臨也は戯れていた右手を頬に滑らせ正臣の少し大きな瞳と自分の瞳を合わせた。

「ねぇ、正臣君。君は実に俺の理想だよ。」

歯の浮くような台詞は、目の前の男が囁けば、ただただ陰湿に変化するだけで。
正臣は手持ち無沙汰な片手で臨也の腕を掴んだ。

「さっきの質問の返答です。少なくとも二人と比べた時、あんたは確実に選びません。」

正臣の返答に不快を露わにして、僅かに臨也の眉に皺が寄った。
その臨也の表情に、心の中で勝利の笑みを作り、正臣は臨也から目を逸らす。

「だってそうじゃないっスか。気づいてないみたいだから言いますけど、あんたの中身なんて最悪極まりないですよ。」

辛辣な正臣の言葉に臨也は怒るでもなく、悲しむわけでもなく、ただ唸り声をあげた。そんな臨也を見ると、視線が絡んだ瞬間に、臨也が品行方正な笑みを浮かべ。

「なぁんだ、そんなことか。それは問題ないよ。だって俺の場合見た目の良さが100パーセントパーフェクトだからね。」

心底うざったらしい。

正臣の感想は言葉にならず、ただ冷たい視線を臨也に浴びせるだけに留まる。
そんな正臣の気持ちを知ってか知らずか、臨也は己の額を正臣のそれにつけ。

「もっと言えば、俺は君の好みであればそれでいい。」

真剣そのもの、というような表情に正臣の鼓動が駆け始める。それはぐんぐんとスピードを付けていき、止めることは叶わず。

「だ、れが…」

喉がひきつるのを隠すことも出来ずに言えば、臨也は楽しそうに笑った。

「わからない振りは賢いとは言えないよ、正臣君。だって君は、俺のことが心底好きだろう。」

それは疑問ではなく、どこまでも確定的で。何かを言い返そうとした正臣の唇に臨也のそれが重なり、正臣の口内へと舌が侵入する。
まるで生き物のように正臣の舌を臨也のそれが絡め取り、互いの口内にどちらのとも知れない唾液が行き交い、唇を離すと、橋が煌めいて作られた。
荒く息をつく正臣の濡れた瞳を見つめながら、臨也はその頬に触れる。


「ほら、ね。この中も俺に相応しいよ。」

口内に臨也の親指が入り込み、更に舌に触れる。正臣を見つめる臨也の顔を見ると、滅多に見せない特有の愛しさが乗せられていて。

「ねぇ、正臣君。さっきの君の返答を要約すれば、君にとって中身が最重要項目と判断出来るね。それを踏まえれば…」

ふと赤い瞳がまるで獲物を捕らえるかのように細く煌めいて。
あぁ、捕らわれたな、なんてことを不意に正臣は思った。
どこまでも深い赤と正臣の蜂蜜が絡み、時が俄かに止まる。


「俺達の中身は見た目よりも格段に合っていると思うんだけれど。色んな意味で、ね。」


ふと気づけば、いつの間にか背にはソファーがあり、臨也の後ろにはシックな天井。
その事態に一つの結論と結果が正臣の脳裏を過ぎる。
すっと、正臣は臨也の頬に手を伸ばし触れた。
黒髪が柔らかくさらりと落ちたのを見て、正臣が苦笑を浮かべ。

「あんたはいつも、前置きが長すぎるんだよ。まぁ、そんなところも…」

ムカつくくらいには好きですよ。


そう珍しく口にすれば、臨也は少しだけ目を丸くして、すぐに整端な顔をこれまた珍しく優しく愛しそうに緩ませて。
その表情に、正臣の熱がふわり、高く速く駆け上がっていった。


結局、見た目も中身も自分たちに合っているかってことが肝心なんだよな…


なんて悟ったことを考えて、正臣はゆっくりと瞳を閉じ、臨也の首に腕を回し、静かに抱き寄せた。







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