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ああこんなにも愛しい

ああ、ああ、ああ
奥底から這い上がってくるようなこの感情が大きすぎて胸が張り裂けて、この身さえどうにかなってしまいそうだ。
先ほどからこんなことを胸に無理矢理押し込み、思わず唇が紡いでしまわないように我慢し続けている。
折原臨也は、目の前で悲哀と苦痛で歪みきった表情の少年を見すえた。無論、愉しげな笑顔を張り付けたままである。
少年の丸みを帯びた双眸は、今にも大粒の涙が零れ落ちてしまいそうな程に潤んでいた。
見つめる臨也の瞳に晒されるは哀れみ、蔑み、歪み。それらは全て、彼の内にある歪みに歪んだ異常すぎる少年への愛情からくるものだ。少年はふるふると小動物のように震えながらも拳には尋常ではないほどに力強く握りしめられていた。
その姿を瞳に写す臨也の心には、同情さえも存在していない。白い歯をちらりと見せながら口角をあげる青年。

「俺だけは、君を愛するよ」

するり、と少年―――正臣の肩に己の腕を回す。そしてそっと彼の耳元へ唇を近付けた。

「愛でて、愛でて、遊んで、弄って、独占するよ」

ぶわり。閉ざされていた何かがこじ開けられたかのようにぽたぽたと正臣の双眸から涙が零れ落ちていく。
言葉を紡げば耳元から離れる憎いはずの男の唇。そして己の頬を包んでくる臨也の手に愛しさが込み上げてきて、胸が締め付けられる。だがそのことに吐き気が生じ、自嘲的な笑いを零した。

「…気味悪いっすよ、」

柔らかな表情とはまったく正反対な言葉を吐いて、正臣は瞳を閉じる。感じるのは青年の手から頬へと伝わっている熱と自分の鼓動のみだった。
嬉しさか虚しさか、また涙は零れ落ちていく。臨也は冷たい空気に晒されて温度を無くしたそれを指先で拭い、その指先に舌を這わせた。舌から広がる塩辛い味に眉根を寄せることなどせず、むしろ愉しげに嬉しげに顔を歪ませる彼のことなど正臣が知る由もない。

「―――    」

狂いそうだ。そう呟き流れる動作で正臣の唇に吸い付く臨也。
抵抗しない少年に、青年は優越感によって顔を綻ばせた。それは彼を丸め込んだという当初の目的達成の喜びもあるが、何よりも自分の偽りに溺れ始めた哀れな少年の姿に対する気持ちによるものの方が大きい。

嫌いじゃないよ、人間らしい愚かさと弱さを同時に併せ持つ…君のような存在は――――いいや、違うか。無論、大好きさ。

言葉の代わりに口元に弧を描きそれを呑み込む青年の姿は、とてもとても残酷なものだった。




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ありがとうございました!

2010.07.06





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