また君に逢いにくるからね
「ねぇ、正臣くん」
「‥臨也さん、なんでそんな堂々と不法侵入ができるんですか」
風呂から上がり、タオルで頭を拭きながら部屋に戻ると、当然のように臨也さんが座っていた。
家の鍵はちゃんと掛けたはずなんだけど
「ああ気にしないで、ちょっと言いたいことがあったんだよ」
そんなんで不法侵入するな。
舌打ちすると、臨也さんの向かい側‥ではなく横に腰を下ろした。
そりゃあもう、くそったれの臨也さんの顔なんか見たくないからだ。
「貴方の話はろくなことがないんで帰ってもらえますか?」
「えー、人を決めつけるのはよくないよ?紀田正臣くん?それは人に対して非常に失礼な行為だよ」
あんたは俺に対して色々失礼だろ。
その突っ込みを喉の奥まで出かかったが、ギリギリでそれを飲み込んだ。
「どんだけ人に執着心持ってるんですか」
「俺は人が好きだからね」
「胸張って言うようなことではないですよ」
「愛してるんだ」
「!!」
少し間を置いて聞こえたのは、はっきりとした愛の言葉。
いきなり甘い声で言ったものだから不覚にもドキリとしてしまった。
落ち着け俺。
『俺』じゃない
いや、例え『俺』に対して言っているんだとしても、動揺するほどのことじゃない。
落ち着け俺、
こいつは男だ。しかも俺を貶めた張本人だ。憎むべき男だ。
落ち着け落ち着け落ち着け、
心の中で何度も自分に言い聞かせているといつの間にか整った顔が近くまで来ていた。 それに驚いて顔を背ける。
すると臨也さんは楽しそうな口ぶりで話し出した。
「ねえ、正臣くん。顔が真っ赤だよ、大丈夫?まさか急に熱でも出たとか?‥それは心配ないか、なんとかは風邪を引かないっていうし、あ。もしかしてさっきの言葉が俺が君に対する愛の告白だと思ったの?まさか勘違いしちゃった?」
これは遠回しに馬鹿って言われてるのだろうか。
いや確実に言ってる。
「貴方が急に顔を近づけるから驚いただけですよ」
本当にそうだよな?
その時からだよな?
まさか本当に勘違いなんてしてたわけじゃないよな
自分でも自分がわからなくなって混乱する。
「勘違いしてもよかったのに」
「へ?」
言葉の意味を探ろうと臨也さんの方を向いた。
すると同時に唇に柔らかな感触が生まれる。
臨也さんの整った顔もさっきより近くに見えて。
この口付けがキスだと気づいたのはすでに遅かった。
いつの間にか唇は離れ、臨也さんはすでに部屋のドアに立って手を振っている。
戸惑っている俺をよそににこにことした満面の笑みで。
「じゃあ、また逢いに来るからね」
その時までに返事、考えておいて
そう告げるとゆっくりドアが閉まった。
頭が真っ白になったのは言うまでもなく。
臨也さんが言った言葉が脳内を永遠と繰り返されていく中で、かすかに唇に残った体温が熱を持っているのがわかった。
その熱を払うように?
新たに出来た悩みを否定するように?
または愛情の裏返しか、
俺は小さく呟いた。
「‥‥死ね、ばか」
頬の熱は冷めないまま。
小さく、小さく。
end
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