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期待を裏切らない答え





日はすっかり地平線の向こう側へと落ち、太陽の明かりに照らされて居たアスファルトが、打って変わり人工的なネオンの光を弾いていた。

「………はい?頭イカレましたか?」

そんな時間に呼び出された正臣は一人の男の目の前に間抜け面を晒して立っていた。いつも見せる余裕のある笑みが消え失せた男の顔を、ただ無心に見つめて居た。

冷ややかな赤が正臣を睨む。
ぶちまけられた珈琲が書類を染め、臨也が、その助手である波江が、そして正臣が作り上げた書類を汚していた。

「残念ながら正常だよ。少しムカつくことがあっただけで」

正臣に出された問いは至極簡単だった。“俺に向かって愛を囁け”そんなものだったから。
愛なら臨也を崇拝する女の子たちか宣ってくれるだろうし、それが足りないなら適当に女の子を捕まえて言わせればいい。折原臨也は性格はひどく歪んでいるが、黙って居れば相当な美形だ。
黙って居れば、の話だが。

「………」

「ダンマリは良くないよ。人間には口という、まあ声という音を出しているのは声帯だけど、この際言葉を発するのは口だから口って言うけどね。その口があるんだから何か言いなよ」

冷ややかな赤は変わらず黙り込む正臣に嵐のような言葉が降りかかる。呆れてものが言えない、というより、正臣には何を言えばいいのかわからなかった。
目の前の彼はとにかく、機嫌が悪い。普段の人をおちょくるような余裕のある笑みも浮かんでいないし、何よりその手にはナイフを握りひたすら開いたり閉じたりを繰り返している。あからさまな苛立ちを表現する動作に正臣は頬を引きつらせた。
下手に喋ると殺される。しかし愛を囁くなど死んでも嫌だ。

――というか、こんな時間にこの男はこんな用事で自分を呼び出したのか。

シャワーを浴び終え、後はベッドに入り意識を手放すだけだった正臣には迷惑極まりない。この非常識な人間はさっさと死んでしまえばいいのだ。

「死んでしまえ、って顔に出てるよ」

「わかってるならさっさと死んでください。非常識過ぎるんですよアンタ。何時だと思ってるんです、ていうか愛ならその辺の女の子に囁いてもらってください。臨也さんなら簡単に引っ掛けられるでしょ、一人や二人」

勢いに任せ全てを口にしてから、目の前にいる男の機嫌が最高潮に悪いことを思い出す。しかし、言ってしまったのだから仕方がない。正臣は胸を張って自分が悪くないことを全身で主張する。
けれど目の前の男の唇は静かに歪んでようやく笑みを零す。まあ、それは普段の笑みではなく、玩具を与えられた子どものようだったけれど。

「模範回答、ってヤツだね。俺が考えてた通りのセリフをありがとう。でも俺が求めてるものじゃない。俺が何を求めてるのか、君ならわかるだろ?正臣」

どこまでも挑戦的に、歪んだ顔で笑って見せる彼に正臣の唇も歪んだ。込み上げる笑いは肩を揺らし、正臣は苦笑混じりに前髪を掴む。
こうして彼は時折弱さを見せる。弱さに見えない弱さを。自覚があるのかないのかわからないけれど。だからこそ、正臣はのめり込む。

「予想通りは要らない。君なら俺の期待を裏切れるだろ。俺の望む以上の言葉をちょうだい」

笑う彼はどこまでも歪んでいた。そして正臣も歪んでいた。だからこそ、正臣はこの男に、臨也はこの少年に惚れたのだ。







予想を裏切らない答え
(愛を囁くには歪み過ぎて)





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