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見抜かれた本心


体を強く揺さぶられて俺はぱちりと目を覚ました。カーテンの隙間から部屋に差し込む朝日がまぶしくて、思わず顔をしかめる。新宿の朝は早いようで、もう外から街行く人々の音が聞こえた。その音を聞きながら、俺はベッドの横に立っている少年に問いかけた。

「…もうちょっとソフトな起こし方できない?」

「ソフトじゃないですか」

「いや俺揺さぶられすぎて落ちかけなんだけど」

俺は半分落ちかけている体を起こした。それを無表情で見つめている少年、正臣くん。

「とにかく早く起きてくれません?もう7時半ですけど」

「えー」

「毎朝7時には起こせって言ったの臨也さんでしょ?」

そう言って正臣は俺の布団をべりっと剥がした。とたんひやりと冷たい空気が入ってきて思わずぶるりと震えた。俺は体を丸めて言った。

「君は俺の母親かい?」

「そんなの願い下げです」

きっぱりと答えを返す正臣。まったく冗談じゃないか、と呆れたように俺は言うと、ベッドから降りた。

「次からはもっと早く起きてくださいね。それと朝ごはんですけど、今目玉焼き焼いてるんでパンは自分で焼いてください」

てきぱきとしゃべる正臣はエプロンをかけていて、料理中に俺を起こしにきたのだということが察せられた。

メイドさんみたいだなあと俺は思う。もちろん口に出すと怒らせるので心の中で、だ。なぜ正臣を家政婦とかお手伝いさんとかじゃなくてメイドさん、という表現を無意識にしていたのかは自分でも分からなかったが。

俺と正臣が同棲しだして2ヶ月。今日みたいに正臣に起こされるのが毎朝の日課となってから2ヶ月、ということだ。正臣は毎朝自分を起こし、朝食をつくり、洗濯をし、掃除をし、自分が帰ってきたら晩ごはんを作り、風呂を沸かし、そして夜の相手を、

「なににやけてんすか。気持ち悪いっすよ」

「あ、いや」

正臣に言われて思考が遮断され、同時に自分の顔がにやけていたのに気がついた。

「正臣くんって新妻みたいだね」

「死ね」

さっきの思考をもとに導いた考えを言っただけなのに、正臣は吐き捨てるように言葉を返す。

「…ひどいなあ」

「ひどいもなにも気持ち悪いですよ」

「正臣くんちょっと口悪くない?」

「臨也さんに優しく言う必要ないでしょ」

ほら、早く座ってご飯食べてくださいと淡々という正臣。つけていたエプロンをはずして正臣も椅子に座る。こうして朝向かい合って朝食を食べるのも毎朝の日課。この状況って夫婦みたいだよね、と言うとそれ昨日も言ってましたきもいです、と言われた。

同棲すれば正臣くんのデレが見られるかなと思ったんだけどなあ。生活を共にしているなんて聞くからに甘い響きじゃないか。

しかし現実はそう甘くないらしい。

朝食を食べ終わると正臣くんはさっそく食器を片付け始める。毎度ほんとメイドさんに向いてるよなあと思う。もちろん俺専属のね。

そんな気持ちの悪いことを考えていると正臣くんが俺に言った。

「仕事行くんですよね。コート出しておきましたから」

ありがとうと言ってソファにかけてあったコートを羽織る。羽織ながら尋ねてみた。

「正臣くんはさあ俺のこと好き?」

「嫌いです。それ昨日も言ってましたよ」

あれ?即答?と聞いた俺を無視し、朝食のときみたいに同じようなこと毎日聞かないでください、とため息をつく正臣。俺も昨日も言ってたことぐらい分かってる。今までは聞いてこれで終わりだったけど今日は違う。

そろそろ君の気持ちを明確にしておこうと思って。

心の中でそう呟くと、不機嫌そうな顔をしている正臣くんをソファに押し倒した。

「はっ!?なんなんすかっ」

「あれ?顔が赤いよ?」

「…っ」

抵抗するように手足をバタバタさせているがその顔は真っ赤で。俺はにんまり笑って言った。

「君が俺を嫌いというなら普通はこの状況で顔を真っ赤にさせるというのはおかしいんだ。人ってものは嫌いな奴に押し倒されたら普通怒りで顔を歪めるはずだ。真っ赤になるなんてありえない。それならばこの状況になるとする理由があるのなら。それはその相手を自分自身が好きな場合だ」

正臣は一気に言葉を紡いでいく俺を呆然と見つめる。もちろん押し倒されている状態は変わらず、顔は真っ赤にしたまま。

そんな正臣ににやりと笑いかけ、俺は言った。

「―つまり君が毎朝毎朝俺のことを嫌いだと言ってたことは嘘になる」

「ちがっ、」

「いや違わない。君は俺が好きなんだ」

「っ、死ねっ」

そんな顔真っ赤にして言っても意味ないよ、と笑って耳に囁く。

「君の気持ちぐらいお見通しさ」

そして耳もゆでだこのように更に真っ赤になった正臣くんにキスを落とした。







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