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風の中
言えないのは
部屋をキレイにしてから、壁に寄りかかりつつ玄関を出る。

「いってぇ…」

もー、無理。痛すぎだっつーの…。

さっき、とりあえず長谷川さんに帰ること伝えようと思って携帯を開いたら、なんと長谷川さんからメールが届いていた。
開いてみれば、"わかった。お大事に"という文面だった。

なんとなく予想がついて送信ボックスを見たら、案の定送った覚えのないメールが送られていた。

"すみません、調子悪くなったんでそのまま帰ります"とか、まぁその通りの結果になってしまったわけだが。

でも、あの強姦魔たちがそのメールを送ってくれたおかげで、風紀にバレずに済んだ。
長谷川さんには絶対知られたくないから、よかった。

階段をゆっくり降りる。
この調子だと、寮はエレベーター使うしかないな。
いつもは階段使ってるんだけど、今日はしかたない。

いや、それ以前に…自力で、帰れるのか…?

階段を降りたところで倒れそうになりながら、そんなことを思う。

……無理、だな。

携帯をのろのろと取りだし、のろのろとメールを作成する。

辰樹に、寮のエントランスまで来てくれという内容を送信する。

ふらふらと空き棟を出て、寮の自動ドアをくぐった。

あー、ソファーだ…。
まじナイス。

安心してドサッと座ったら、案外腰に響いて、思わず呻き声が洩れた。

受付にいた寮主さんに大丈夫かと声をかけられる。
それにちっさな声で返事をして、瞼を閉じた。

キッツ……。

明日休みでよかった…。










「おーい、アホ助」
声が聞こえてゆっくり目を開けると、辰樹が目の前で腰に手を当ててこちらを見ていた。

「たつき…」

「なんでそんな声ガッラガラ?」
ケラケラと笑われるが、正直反応してやる余裕はない。

「……で?どうして俺をここに呼んだ」

「んー…おんぶは、無理だよなぁ…」
「はぁ?」
「ちょっと…部屋まで肩貸して」
「………どうしたんだよ」
「足を捻った」
「……ふーん」

だらーんと手を辰樹に伸ばすと、優しく引っ張ってくれる。
立ち上がった拍子によろけて、辰樹に寄りかかってしまった。
「っわりぃ…」
「いや…うん、もうおんぶしてやる」
「…なに、優しいじゃん…」
「ほら、いいから乗れよ」
「ん…」
しゃがんだ辰樹の背中にそっと体を預ける。
辰樹が立った振動で、また腰が痛んだ。
「っ、ふぅー…」
「…そんなに痛ぇの?」
「ぃゃ…大丈夫…」
「嘘つけよ…」

優しいモードに突入している辰樹は、気遣うようにゆっくりと歩いてくれた。
あー、こういう時の優しさって、いつも以上に心に染みる。

…なんだよ、泣きそうになるからやめてくれ。

無言のまま部屋につき、そっと部屋のソファーに降ろされた。
でも、それですら痛みを伴う。
「っ、いって、…」

「……なぁ、琉衣。お前、足捻ったとかじゃないだろ」

「…………」

「何時間も前にな、風紀がお前の鞄届けに来たんだ。お大事にって言っといてくれっつって…。おかしくねぇ?お前どこで何してた」

「…………」

言うべきか、否か。


……ああ、もう、……今は俺を支えてくれる人が必要だ。

「………ぅかんされた…」
「なに?」


「……強姦された……」


「…………っ、まじ、で…?」

「………………たつき…俺、――っ」

いきなりギュッと抱き締められた。

「……なんも、言わなくていいから」
「……ぅん…」
















さっきまで冷えきっていた手が、なんだか温まっていくような気がした



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