哀色
失敗
最近やけにダルい。
風邪だろーな。
薬でも飲んどくか。
棚から風邪薬を引っ張り出して、水で流し込む。
それから、まだ寝ているであろう龍聖を起こしに部屋に向かった。
龍聖は本格的に生徒会として働くようになったみたいで、帰りも遅いし授業も生徒会の仕事のために休みがちだ。
大変だよね。
部屋の扉を開けてみると、やっぱり龍聖はぐっすり寝てた。
「龍聖、起きなよー?」
近づいて声をかける。
「ん…おはよ、優」
「はよ」
眠そうにぐっと伸びをした後、龍聖が顔を近づけてきたので、指でそっと阻止。
「今風邪ひいてるから止めた方がいい」
「優の風邪なら移されてもいい」
まーた可愛いこと言っちゃって。
「今、生徒会忙しいんしょ?」
「…じゃぁ、ここで我慢する」
そう言ってデコにチュッと唇をあててきた。
「んー、龍聖のタラシめ」
「お前にだけだから安心しろ」
「こんにゃろー、かわいーなぁ」
龍聖は優しく笑って、もう癖になりつつあるのか俺の頭をわしゃわしゃした。
その瞬間、ちょっと頭痛。
あー、やっぱ風邪だわ。
はよ治さんと。
「龍聖、朝飯は?」
「んー、いらねぇ」
「たまには食いなよ?」
「おー」
大丈夫かよ龍聖。
その内身体壊しそう。
「上城…上城!聞いてんのか」
ふと意識が戻って顔を上げると、数学の教科担当がこっちに向かってきていた。
「お前、堂々と寝てるな」
「さーせん…」
手に持っていた教科書でパコーンと頭を叩かれる。
視界が、グワリと揺れた。
「ちょっと立ってろ」
いや、正直立ってられる自信ねぇよ。
ってか、なんかもう無理だ。
「先生…」
「なんだ」
「保健室、行っていいすか…」
「調子悪いのか?」
「だいぶ…」
「そういうのは早く言え。叩いて悪かったな。行ってこい」
「あざっす…」
ガタンと席を立って教室を出る。
ちゃんと薬飲んだのになぁ。
カチャンと玄関が開く音がして、意識が引き戻される。
知らないうちにソファーで寝てたらしい。
ゆっくりと身体を起こせば、廊下を歩いてきた龍聖と目があった。
「おかえり、龍聖」
「ただいま」
龍聖はそのへんに鞄をどさりと置くと、疲労の滲み出た顔をして俺の方に近づいてきた。
「疲れた…」
「ん、お疲れ」
「ありがと…」
くたっとのしかかってきた龍聖をギュッと抱き締めてやる。
すると龍聖は俺の首筋に顔をうずめた。
「優…今から、していい?」
「え…」
なんかなー、体調悪くてやる気になんない。
「ごめん、ちょっとダリィわ…」
龍聖がピタッと動きを止めてから、失敗したと悟った。
今のはマジで言い方悪かったかもしれん。
ダルいはねぇよな。
「…ならいい」
「龍聖、」
引き留めようと腕を掴んだら、結構な強さで振り払われた。
「龍聖、ごめん、やっぱやろー?」
「だからもういい」
なんだよ、何で今日こんな機嫌悪ぃの。
疲れてるから?
いや、でも俺も今結構しんどいんだよ。
しょうがなくね?
龍聖はソファーから立ち上がると、さっき歩いてきたばかりの廊下をもう一度引き返していく。
「どこ行くの」
「お前には関係ない」
「なぁ、ごめんてば…」
そんな俺の謝罪に返事が返ってくることはなく、玄関が閉まる音だけが虚しく響いた。
消えてく色をただ眺めていた
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