逆転のち逆転
【S】音沙汰なし(1)
部室でみんなが着替えをしているなか、俺の視線はまっすぐ俊希さんだけを捕らえる。
俊希さんの背中は一種の兵器だ。
なんて白くて滑らかなんだ。
舐めたい。
でも、あまりじろじろ見ると回りの人に勘づかれるかもしれないから、チラッと見るだけにとどめた。
俺えらい。
「秋一、行くぞー」
「おう」
同学年の部員から声をかけられ、俊希さんの観察を中断する。
「今日筋トレのあとミニゲームだっけ?」
言われてみれば、昨日顧問がそんなことを言ってたような気もする。
「たしか」
「よっしゃ、楽しみ!」
ミニゲーム。
俊希さんはサッカーそんな上手くないけど、そこがまた可愛い。
ミニゲームでは可愛い俊希さんをたくさん見れるから、俺も楽しみ。
ボールがグランドの中で、飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ。
早く俊希さんにボール渡らないかな。
そして早く俊希さんが転ぶの見たい。
ていうか、あれ、なんか、何もなかったかのように時が進んでる気がする。
なんだかんだあんなことしたんだから、俊希さんが俺を恋愛対象として甘い目で見るようになるとか、逆にギクシャクして甘酸っぱい空気になるとか、何か変化があってもよさそうなものだ。
俊希さんの俺を見る目は至っていつも通り。
おかしい。
もしかしてあれは俺に都合のいい夢だったのか?
いや、俺が食われた時点で都合はよくない。
一回、俊希さんと二人きりで話がしたい。
二人きりになって暴走しないか不安ではあるけれど、そこは俺ももう高校生、なんとか抑えてみせる。
逆にまだ高校生と考えた方がいいのかどうかはこの際放っておこう。
話すとしたら、いつがいいかな。
なんだか、今すぐに話したくなってきた。
「秋一!」
名前と共にボールが俺の足元に飛んでくる。
それを受け止め、パスの体勢へと移った。
よし、狙いは俊希さんだ。
俊希さんの顔面めがけて、俺の足が勢いよくボールを蹴りあげた。
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