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短編(戦国BASARA)
鏡(男主/毛利)

 

海を行く影があった。
波を蹴散らして進む帆船の姿は、空と海の蒼によく映えた。
その甲板上、船の行く先を見据える男がひとり。
「毛利…、か…」
ふわりと潮風が頬を撫でた。
今回の戦の相手は、彼にとっては因縁とも言える男だ。"毛利元就"
知略と策謀によって、中国の覇者にまで上り詰めた智将。
氷の面と呼ばれ、部下から恐れられていると聞いたが。
(分からねェ…)
兵など捨て駒、と言い切る男の行動は、野郎共と苦楽をともにしてきた自身にはまるで理解出来ないモノだった。
海に臨む社が見えた。
厳島――それが、自身があの男と相見える舞台の名だ。
破槍を振り、声を張り上げた。
「いくぜ、野郎共!」
「アニキィィイ!!」
声援を背に、船の縁を蹴り、降り立った。
(この鬼が、喰らってやるよ)
この男、名を長曾我部元親と言った。

社の奥、若草色の戦装束に身を包んだ男達がいた。
「伝令!長曾我部軍の船です!!」
その中でもひときわ目を引くのは、中央の縦長の兜の男だ。
顔の上半分を兜で隠した姿は一種独特な印象を受ける。
「来たか」
男はゆるりとした動作で立ち上がった。
特徴的な円を描く刀を取り前方――朱色の鳥居の先、紫の軍勢を指し示す。
その瞬間、電流のような緊張が周りに走った。
男はただ、淡々と。
「"これより、防衛戦を展開する"」
戦の幕明けを、告げた。

「毛利軍の奴ら、ドンドン逃げて行きますぜアニキ!」
「アニキに恐れをなしたんじゃねぇか?」
「ハハッ、違いねぇ!」
戦場は長曾我部軍の快進撃だった。
毛利軍の将兵を次々と蹴散らしてゆく姿は、まさに鬼神の如く。
士気は最高潮であった。
「アニキ!最後の門ですぜ!!」
一人が元親に言った。
「おうよ!」
それに応え、破槍で朱色の扉をぶち破る。
大規模な破壊音とともに敵陣に乗り込んだ元親は、ある男の姿を中央に認めた。
「…よォ、アンタが毛利元就か?」

刹那、破槍から迸る炎が輪刀に反射し、金属のぶつかり合いが衝撃となり空気を切り裂く。
爆発とも形容出来るそれらの反動を使い、二人は大きく間合いを取った。
「ちょいと力比べと洒落込もうや!」
動いたのは、紫だった。
勢いを殺しきらないうちに、直線の動きで緑へと突っ込む。
圧倒的な基礎体力。
それこそが元親の武器だ。未だ衝撃から回復していない相手に向けて、斬撃を繰り出した。
茶髪が数本舞う。
しかし、それを避ける動きすら利用し緑は体勢を立て直した。下から掬うように輪刀を一閃させる。
それを後ろに飛び退き回避した元親との間に二間(=3.6m)ほど距離が出来た。
が、
「ッとォ!あぶねッ!!」
一瞬で眼前まで迫った輪刀に、元親は反射神経のみで対応した。
振り抜かれた刃は対象を失い、床板を大きく抉り取る。
元親の背を、冷や汗が伝った。
(こりゃ、食らうとやべェな)
心の内を悟られぬよう、元親は口を開いた。
「ハッ、流石においそれと討たれちゃくれねェか」
応答は無い。
何かを待つように相手は動かない。
違和を感じた元親は辺りを見て気づいた。
(オイオイ、こりゃあ…!?)

その時、元親の遥か後方で銅鑼の音が鳴った。
そしてそれを耳にした目の前の男は、その口角をつり上げる。

「策は成った!これより攻勢に転じるぞ!!」

その声に呼応したように、元親の周囲は多くの弓兵で固められた。
「…まんまと騙されたってワケか。だがよ毛利、あんたを討ちとりゃこっちのモンだ!」
目の前の男を見据えて言うと。

「長曾我部、お前はまだひとつ勘違いをしている」
「あ?」
そして目深に被っていた兜を押し上げた。
ニタリと笑うその顔は。

「俺は毛利元就ではない。残念だったな」



元就は海と鳥居を背に、階上から戦況を見渡していた。
そして横の男を一瞥するとひと言。
「遅い」
男は苦笑する。
「なんだ、帰還した従兄を労ってはくれんのか」
元就はその言葉を無視した。
男もたいして気にはせず、兜を取る。
表れたのは目が垂れ人好きのする――元就とは正反対の顔だった。
彼は戦場を見回すと感心したように呟く。
「意外と成功するものだな」
もっと早く見破られるかと思ったが、と言うと、元就は鼻で笑った。
「我の策が破れる筈もなかろう」
元就は男を見やる。
背格好、髪色、声質まで、ふたりは良く似ていた。
異なるのは顔立ちと纏う雰囲気。
顔を隠し口調を真似してしまえば、初見ではまず気づかれない。
「我と男主人公を見分けられなど出来まい」
それこそが彼らの持つ強みだった。
「さて、」
男主人公は炎をあげて攻め来る敵を見た。
「どうするさ、総大将」
「言うまでも無い。行け」

男主人公は笑った。
「はいよ!」





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あきゅろす。
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