北の使いっ走り……
裏切られたとかのレベルじゃない
そりゃ、みんな羨ましがるよ。
シンオウの超時空シンデレラ・カノンと知り合いだ、なんて言ったらね。
でも、僕は何にも嬉しくないわけだ。
初めて会ったのは、カノンさんのラジオ番組に呼ばれて。正しく言うと、ヨウイチロに連れて行かれて。
ラジオ番組では、まだ普通だった。うん。
ちょっとテレビで見るよりもはっちゃけてるな、ってカンジがした程度。
番組中もその後も、僕はそれは緊張していた。だって相手は(一応仮にも)シンオウでトップクラスのアイドルだし。
それでも、間にヨウイチロがいたおかげで、ラジオはなんとかなった。ついでにその後も。
そんで三人で食事して、それでもまだ僕は幸せだった。
だって相手は(一応仮にも)シンオウでトップクラスのアイドルだし。
その時までは、僕もカノンさんを“アイドル”として見てたんだ。
問題はその後……。
「それじゃ、僕は用事があるからここで。同い年の二人で仲良くやってくださいなっと」
そう言って“そらをとぶ”をすべくヨルノズクを出したヨウイチロは、思い出したようにカノンさんの方に向き直った。
そして後の僕にとっては非常に、ひっじょーに余計なことを言ってくれた。
「そうそう、今日一日で分かったと思うけど、こいつ、イジリ甲斐があるよー」
「!?」
僕の当時の心境を表すなら、この二つの記号がピッタリだ。
しかし、ここでこれを冗談として流したりしていたら、今、こんなことにはなっていない。
当時カノンさんがヨウイチロに返した言葉は。
「うん♪とっっってもイジメ甲斐がありそう♪」
「!!??!?」
まったくもって状況が分からなかったね。
だって目の前にいるのは、シンオウでトップクラスの可愛い系アイドル・カノンのハズなんだから。
アイドルといえば、可愛く、優しく、純粋なものではないのか。
……当時の僕も、そう思ってたよ。
呆然としている僕をほうって置いて、ヨウイチロはその場から飛び去った。
残っているのは僕。そしてカノンさん。
「えーっと……」
先程のやり取りは空耳だったと思いたい僕は、カノンさんの方に首を向けた。
そこには、アイドルの名に相応しい最上級の、しかしとんでもない鬼畜な、二つの意味での殺人スマイルがあったのだった。
「コースケ君♪まずはどっちが先にロストタワーのてっぺんに着けるか勝負しよっか。あ、男の子なんだから君は足でね♪私は飛んでいくけど」
この時場所はヨスガ。
時刻は夜九時を回ったかというところ。
それをここから走って行けと。
そしてあの塔を上って行けと。
「すっぽかしたりしたら、次のラジオで言っちゃうよ♪」
何この鬼。
これがアイドルとか認めたくないんですけど。
(ドSにも程ってものが)
つくづく、アカリさんの方がマシだと思えるね。
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