北の使いっ走り……
トラウマは一つ
ヨウイチロに誘われて出たカノンさんのラジオ番組で、【苦手なポケモンは?】という質問が出た。
その場では二人に合わせて誤魔化したけど、本当に苦手なのは……。
(怖いというより気味悪かった)
あれはだいたい一年前、ヨウイチロが唐突にこんな事を言い出した。
「そうだ、ハードマウンテンに行こう」
エンジュに行くノリで言わないでほしい。
しかし悲しいかな、僕は流されやすいタチなので、結局行くことになった。
まあそのおかげで、バク君という友人を得ることができたのだから、その点だけは良かったと思う。
そしてその時は、会ったばかりのバク君と一緒に、“置き石”なるものを取りに行こうということになった。
ハードマウンテンなんて難所、僕一人で切り抜けられようはずもなく、結局道を拓いたのはほぼ全てヨウイチロだった。
バク君もなかなかだったけど、さすがにシンオウ影の三強には敵わない。
で、目的の置き石を持って帰ったまでは良かったんだけど……。
翌日。
《ゴメン……やっぱ、置き石戻すことにした》
バク君からの電話を聞き、僕は完全に彼に同情した。
行きがけにあったバク君のおじいさん。あの怖そうな人に叱られたとあれば仕方がなかろう。
その後僕はヨウイチロに連絡し、再び三人でハードマウンテンに向かうことになった。
ここでおかしかったのはヨウイチロの行動。
普段、ほとんど荷物を持ち歩かず、持つのは本当に最小限だけのヨウイチロが、この時はやたらとボールを買ってきた。
ハードマウンテンにいたのは、僕的には珍しくても、ヨウイチロ的には珍しくもなんともないだろうポケモン達だったのに、なんでそんなにボールを……。
そう思ってた僕は、置き石があった所に辿り着いた時、理由を知る前に硬直した。
昨日置き石があった場所。
その場所に陣取るは……。
僕はあれを“火炎ゴキブリ”としか思えない。
マグマのような岩のような、中途半端な物を纏ったそいつの顔は、本当に、本当に気味が悪かった。
ガサゴソ、と壁にも登っていくその姿は本当に、デカいゴキブリみたいだった。ああ思い出すだけで気持ち悪い。
その時のヨウイチロはというと、僕からすればあり得ないことに、目を輝かせてソイツに向かっていったのだ。
どうやら、置き石を取るとそのポケモンが現れるのを知っていたらしい。きっとシロナさんあたりのツテだろう。
この為に持って来たらしいボールを構えて、ナナカマド博士もお気に入りのポケモン捕獲人・ヨウイチロはソイツの捕獲体勢に入った。
しかし僕はというと、そんなこと気にもせずに、一目散に逃げ出した。
しかしこの山を一人で抜けるのはやはりムリで、結局は少し離れた所からヨウイチロを見ていたんだけど。
最終的にあの火炎ゴキブリ……ヒードランはヨウイチロの手によって捕獲され、そのままナナカマド研究所に送られた。らしい。
その時の様子を近くで呆然と見ていたバク君は「伝説のポケモンに会えて感動した!」とか言ってたけど、僕にはとても、感動なんて出来なかった。
あれも伝説のポケモンなんて、正直認めたくない。
とにかくあのポケモンは、僕のトラウマだ。
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