北の使いっ走り……
お金だけの問題じゃなくてね?
「なーなー。コー兄ちゃんー。バトルの相手してよ〜」
「断るって言ってるだろ……」
このイトコ、突然押し掛けてきたと思ったらそれかよ。
今僕にバトルしろしろとしつこく迫ってきているのは、我が従弟のダイスケである。
名前の加減でよく兄弟と間違われるが、僕の弟は別にいる。今はジョウトに行ってる。
で、この従弟君は今トレーナー修行中。
僕もそうだったように、初等学校を卒業してから二年間という旅の期間を与えられて全国を駆け回っている。
結果、トレーナーとしての実力をメキメキと付け、只今ジムバッジ八個。
いくら兼業期があったりパシリがあったりしたとはいえ、僕の五年前後を一年半で超えてったよコイツ。
しかしさすがにポケモンリーグとなると厳しいらしい。
今まで五回ほど挑戦しているが、全て一人目のリョウさんに負けたそうだ。
毎回少しずつ強くなっているようだが、やはり野生相手の修行ではなかなか強くなれない。
そこでこの従弟君は小さい頃から一緒にポケモンで遊んだりした僕を相手に選んだと。
「だってコー兄ちゃんもバッジ八個じゃんかー」
集めるのに五年くらいかかったけどね。
デンジさんとかタイプ相性だけで勝ったようなもんだからね。……タイプ相性があったから負けなかった、が正解か。
「絶対ダイスケの方が強いよ。いくらバッジが同じだけあるとはいえ、僕、弱いし」
それでもダイスケは納得しない。
「えー。そんなことないから勝負勝負ー」
まったく。
どう言ったら引いてくれるやら。
「負けてお金取られるのがわかってて、勝負をするバカはいないよね?」
「じゃあ賭けじゃなくていいからー」
しまった。墓穴か。
いやしかしこの手が。
「何回も“ひんし”にされる僕のポケモンのことも考えてほしいなー」
情に訴えかける手。
一部を除き、ほとんどのトレーナーを躊躇わせるだろう訴えだ。
「うー……」
案の定、ダイスケは悩みだした。
これは勝負あったか?!
「じゃあ一回だけ、一回だけでいいからさ!」
あちゃ。
一回だけ攻撃で返された。
これは勝てない。
しかし、この歳の、十一、二歳の子の“一回だけ”ほど信憑性のない言葉はあまりない。
これと並んで“みんな持ってる”とかもあるけど、同じカウントだよね。
一回だけなら勝負をうけることを決めて、僕は背を屈めてダイスケと同じ高さに顔を持って行った。
「本当に一回だけ?」
「う、うん!」
心もとないぞ返事が。
このままだったら間違いなく次があったな。
その“次”を無くすべく、最後にくぎを差す。
「次バトルって言ってきたら、ダイスケのお母さんに言いつけるからね」
ダイスケの顔が少し青ざめる。
「う、うんわかった!」
声に焦りが含まれているのは、勘違いではないはずだ。
“一回だけ”が信用できない歳ほど、“お母さんに言いつける”が効く時期はない。
(結果は当然負けでした)
「やっぱコー兄ちゃん強いよー」
「そんなことないよ……」
6対6で、ダイスケの残りは2匹。
現役に対して、僕、がんばったんでない?
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