「七度八分…風邪だな」
「風邪ですね」
【貴方が素直になる瞬間】
声を揃えて言う私と杉田さんに、悠一は仏頂面を浮かべた。
「やっぱり未姫ちゃん呼んで良かった、本人はなんともないって言い張ってたんだけど」
「いや、なんともないどころか完全に風邪ですよねコレ」
私の言葉を曖昧に肯定する杉田さんを、悠一が睨んだ。睨むな、いくら杉田さんに変な言動が多いからって、今回ばかりは悠一が悪い。
「悪いけど、俺はこれから仕事あるからさ。中村のこと頼んで大丈夫?」
「はい、気にしないで行ってください」
悪いね、と言い置いて部屋を出ようとする杉田さんに慌てて声をかける。
「玄関まで送ります」
「いや、大丈夫」
「迷惑かけちゃいましたし」
そう? と苦笑する杉田さんに、もう断る姿勢はみられなかった。多分言うだけ無駄だというのが伝わったんだろう。そして、玄関で靴を履きながら、杉田さんは口を開く。
「未姫ちゃんが来てくれて良かった」
「そんな、たいしたことしてませんし」
「でもアイツ、さ」
苦笑混じりに紡がれた杉田さんの言葉の意味がよくわからなくて、思わず首を傾げてしまった。置いてけぼりな私に、直にわかると思うよ、などと意味ありげな言葉を残し、杉田さんは出て行く。半ば反射的に、行ってらっしゃい、と口から出たが、聞こえたかどうかは定かではない。
「アイツんちじゃないだろ」
取り敢えずもう一度様子を見ようと寝室を覗くと、ふてくされた様子で、ベッドに横になった体制の悠一が言った。咄嗟に言葉の意味をわかりかねていると、杉田、と吐き捨てるように補足される。
「……杉田さんさんちじゃないのに、杉田さんが出かけるからって『行ってらっしゃい』って言ったのが気に食わないの?」
確認してみたら、沈黙と睨みで返された。多分正解なんだろう。だけど、少なくとも5割、多ければ9割以上、杉田さんの第二の実家と言っても過言ではないと思うのだけど、それを言うとまた面倒なことになりそうだから止めよう。
「いーから大人しく寝てよ、治るもんも治んないでしょ」
「煩い」
うるさいってちょっと。心配して言ってるのに……!
顔が引きつった。反射だ。いや、寧ろ声に出さなかった自分を誉めたい。
取り敢えずベッドの縁に腰掛ける。彼はどうしてか少し恨めしげな表情を浮かべた。
「お前なんか、……くそ」
多分、嫌いだ、とか言いたかったんだろう。だけど残念ながら、彼が冗談とかでそういうことを言わないのを、私は知ってる。
「アイツにあんなこと言うなよ」
「でも迷惑かけちゃったし」
苛ついたような表情で悠一が起き上がったのと、視界が暗くなったのは殆ど同時だった。一瞬遅れて、自分は今悠一に抱きしめられているんだと気付いた。
「他のヤツにそんな、結婚してるみたいなセリフ言うの許さない」
「な、ゆ、いち?」
視界が明るくなった。普段はあまり見ない、真剣な表情の悠一が目に入って、身動きが取れなくなる。
顔が、距離が近く――キス、される。
「……う、」
「え」
そう思った刹那、雪崩れ込むように悠一が倒れ込んできた。
「えぇぇぇぇ?!」
流石に、大の成人男性を反射的に支えられるほどの筋力は持ち合わせていなくて、押し倒されるような形で一緒に倒れ込む。
ていうか、立派に重病人じゃない…!
どうにか大勢を立て直して、悠一も定位置につける。改めてみると、さっきよりも息が荒くなっている気がした。
「無茶するから」
不意に、杉田さんが帰り際に言った言葉を思い出した。
――でもアイツ、さ。未姫ちゃんの前じゃ見栄も貼ってられないだろうから。
見栄って、強がるって意味だったんだろうか。それとも、自分の気持ちに嘘つけないとか、そういう?
……どっちでもいいか。
取り敢えず、起き抜けの第一声が「腹減った」でも大丈夫なように、お粥でも作っておこう。
★フリリク、桜様より、なかむらさんで甘でしたー。なんか若干心が折れたりして行き先がわからなくなったり…orz そもそもこれ甘いの?←
お持ち帰りは桜様のみ可です、フリリクありがとうございました
20100421 miki,i
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