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ずっとそばにいるから








「これはちょっとマズいんじゃないですか、未姫さんよ」
「……え、何見てるんですか」

 飲み物が切れた、と言った神谷さんに、自分が買いに行くと言ったのが数十分前。帰ってきて、開口一番がソレとかあんまりだとは思ったが、そんなこと気にしてる余裕は、まぁ、ない。

「これはー……」
「てか! 見ないでくださいって!」

 どうにか奪い取ろうとするけど、神谷さんの方が何枚か上手だった。私の手が紙に届く前に、すっと身を捩る。

「C判定かー……」

 どこか絞り出すように呟いた神谷さんに、一言言いたくなった。
 その事実は私が一番わかってる、と。

 その日はちょっと体調が悪くて。
 吐いて出そうになった言葉を押し止どめる。言い訳だ、そんなの。でも、よりによって、どうして今回のを見られてしまったんだろう。いつもならもう少し良いの。いや、私の失態か。

「滑り止めは問題無さそうなのにな」

 滑り止めで滑ったら滑り止めじゃないだろうに。ていうか早くソレ返してくださいよ。
 ……なんてストレートに言えたらどんなに良かったか。親に怒られるよりヘコむかも……。

「おい」
「……」
「未姫さーん」
「……」
「未姫さんやーい」

 聞こえてますよ。ただちょっと返事をする気力を無くしかけてるだけで。
 神谷さんが盛大に溜め息をついた。自分の反応がそうさせてるのは重々承知だけど、更に気分的にヘコむ。

「おい」
「……」
「ったく。なにヘコんでんだよ」

 頭の上に重みを感じる。あ、撫でら――いや、掻き回されてる。

「か、神谷さんやめてください」
「ぼさぼさにしてやる」
「ちょ、何言ってるんですか」
「ごめん」

 話の変化についていけなくて、思わず動きを止めた。状況判断をすることが出来たのは、神谷さんの次の言葉を聞いた後だった。

「出来てないとか、頑張ってないって意味合いのつもりじゃなかったんだけど」

 バツが悪そうにしながら、神谷さんは言葉を探しているようだった。私はただ、次の言葉を待つ。やがて神谷さんは、言った。

「知ってる。お前が頑張ってんの、知ってるから。最近の受験事情はわかんないけど、俺はお前が頑張ってんの知ってるから。だから、その」

 あー、とか、うー、とか言いながら、視線を迷わせる。そしてちょっと迷ったあと、きっぱり言った。

「お前が自分のこと信じられなくなるときも、あると思う。でも、俺は信じてる」

 ああもう、上手く言えないな。照れ隠しもあるのかもしれないが、髪を掻きながら悪態を吐いた。

「ありがとう、ございます」

 呟くように、それだけ言った。いや、それしか言えなかった。神谷さんは小さく笑ったようだった。頭の上に手が置かれた。今度は、しっかり撫でられた。

「どーせこの結果だって、テストの日体調悪かったりしたんだろ。だからあれだけ夜遅くまでやるの止めろっつったのに」
「……え」
「お見通しだ、バーカ」

 きっと、この模試の日を境に夜遅くまで起きるのを止めたのを、神谷さんは覚えていたんだろう。

「ちゃんと、勉強してきたことは裏切らないって。な?」
「……はい」

 よし、と笑ってから、神谷さんは立ち上がった。側にあった棚の引き出しを開けて、取り出したものをこちらに放る。

「わっ、え?」
「持っとけ」

 にゃーさん何処行ったかなー、などと言いながら、神谷さんは部屋を出て行く。そのわざとらしさに若干の違和感を覚えたが、彼を見送る。それから放られたものを確認した。

「……おまも、り」

 なんでこれを渡して部屋を出て行ったんだろう。少し考えて、思い当たった。


 ――もしかして、照れ隠し?


 思わず噴出してしまう。普通に渡せば良いのに、とか、どっちかというと、言っていたことの方がよっぽど恥ずかしいと思う、とか、色々思うところはあったけど、全部胸にしまった。

 大丈夫、大丈夫。
 やれる。
 だって、いつだってそばに居てくれるって。


(頑張れなんて言えないから、これは俺の代わり)
【ずっとそばにいるから】





★フリリクで、あずみ様より「受験生彼女を応援」
 わかりにくくなってしまった…orz


 20091201 miki,i























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