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信じて
「なんていうかまた止められてないね俺!」
「ゆきみちー? 誰に怒鳴ってるんだー?」

アスベルがもう日も暮れるってのにリチャードを裏山に連れ出した。ソフィと俺は付き添い…なのか?
つーか止めろよ王子。
…ヤバい超嬉しそうだそうだよな王子だもんな仲良くしてくれる人なんかいないよな特に同世代! 遊びに誘われるのなんか初めてだよなそりゃ嬉しいな断れないな! いやそもそも勢いのついたアスベルを止められるって方が間違いか。

(ちなみにこの王子ってのは比喩ですよー…って誰に言ってんだ俺)

自問自答してる間に花畑に着いた。

「…ああ、」
「…美しい…」

子供の言うセリフじゃないことは置いとくとして、ほんとにここは綺麗だ。夕焼け終わりかかり、周りがほとんど影だってのにわかるくらい綺麗だ。
…ヤバいじゃん。あー今帰っても逆に周り見えなくて危ないよな、灯りになるものなんて持ってないぞ俺。
がさ、と入り口の方の草が鳴った。

「王子殿下、こちらにおいででしたか」

あ、さっきの格闘家。名前なんだっけ。芝居がかったお辞儀がちょっと嫌みだ。
つか護衛の間でも王子呼びされてんのかこいつ。まんま王子だもんなー美形で金髪で言動無駄に優雅で浮世離れしててって。記号で網羅してないのなんて碧眼くらいだろ、そんかわし実はラント兄弟目の色青だけど。綺麗。

「…思い出した! 今の国王陛下には、リチャードって名前の子供がいるって…」

おおいアスベルマジにとんなって、どーせ冗談だろ王子、
…そこで暗い顔で俯かないで王子!

「えええええマジネター!?」

頑張って冗談で流そうとした俺の努力は!?

「お命頂戴!」
「そしてお前はどこの武士だ!」

とても三流くさいからやめてほしい。
横合いからソフィがビアスを蹴り飛ばした隙にリチャードの腕を取った。つかこいつ俺が頑張っていい人認定しようとしてたのにその努力も粉々にしやがったからね!

「とりあえずいっぺん逃げんぞ! 走れ!」

ソフィの素早さなら時間稼ぎくらいできるだろ。アスベルも連れて行きたいんだけど超スイッチ入っちまってるし…あ、蹴られた。

「アスベル!」
「その男は本当に信用できるのですか、王子殿下!」

俺の声に被せてビアスが嫌な嗤い方をした。なんだこいつ。
ビアスはソフィの拳を捌きながら続けた。

「記憶がないなどと言って、本当かどうかなどわかるはずもない! それどころか…そう! 隣国からあなたを殺しに来たスパイかも知れないのですよ!」

リチャードが震える手で俺の手を外した。
ショックだった。俺が信用されてないってのと、リチャードが今の、それこそ自分を殺しに来た奴のセリフも聞き入れちゃうくらい他人を信用できないこと。
S.E.E.S.でも稲葉でもみんなよくしてくれたから忘れてた。ここに来て一番に会ったアスベルがあっさり笑ってくれたから忘れてた。
今日会ったばかりの人間を信用するのはすごく難しい。

「───ふ、っざけるな!」

アスベルがビアスに突っ込んだ。

「リチャードもゆきみちも俺の友達だ! お前なんかがバカにするな!」

まぁ直後にカウンター食らってたけど、俺は不覚にも泣きそうになった。
リチャード。知ってるか。誰かに無条件に全部を預けられることはこんなに嬉しい。
あーやばい今最高潮に凹んだばっかだから半端なく嬉しいわ。子供偉大。不意討ち大得意だよね。
嬉しいから、だから、お前もこれを知るべきだ。せっかくここに馬鹿らしいくらいのお人好しがいることだし。

(そうだろう、)

胸の真ん中に灯りが灯る。そこへ手を当てた。
それから利き腕はホルスターに。

(守りたい。助けたい。あいつらがこんなところで死んでしまっていいわけがない。
誰かの助けになりたいからお前/俺はこのかたちをとった)

「そうだろう───イカロス!」

銃口をこめかみに。引き金を引く。
ぱりん、
ガラスの割れる音がした。






リチャード。…ああもう王子の方が馴染んじまった。
信じてくれないかな。俺はお前と友達になりたいよ。
友達いないお前への同情がないって言ったら多分嘘になる(だって俺そんなキレイな心の持ち主じゃない)けど、でもきっとお前と仲良くなったら面白いと思うんだ。
丁度よくそこに、頼んでもないのにあっさり他人の荷物背負っちまう奴もいることだし、さ。
…その手を取りたいから。届くところまで来て、手を伸ばしてくれないか。


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あきゅろす。
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