まだ手が届かない
大統領が、世界征服でも始めるつもりなのかって言ったとき。
なんにも言えなかった。
「王子ぃ…」
両手を握って額に当てる。どうしよう、どんどんリチャードが悪者にされてく。民間船も襲われてるってさ。溺れたことならある、一度。プールで足つって底まで沈んで、うっかり水飲んで苦しくて、あのときは気付いたら保健室だったけど、海で沈んだらきっと助けてもらえない。
───どんどん罪が重くなるな
イカロスが笑った。
「わらうなイカロス」
───笑うしかねぇだろ、お前が諦めるんならな
「諦めねぇし」
思考を止めるな。考えることをやめるな。失くしたくないなら行動しろ。
「絶対取り返す…!」
欲しいものに手を伸ばさないやつには、欲しいものは一生手に入らない。
島の魔物のせいで、ラントへの直行便は出せないらしい。だから一度フェンデルに入って、国境の砦からラントへ向かうことになった。
「…って、砦開けてもらえなきゃ入れねぇよな」
「アンマルチア族の長から、話が通っているといいんだが…」
なんて言い合ってたのにあっさり通過。拍子抜け。このまんま仲良くなれば、ってそれは安易か。
国境付近はさすがに雪はなかったけど、なんとなく寒々しい感じがした。天気悪いからかな。
砦の半分越えたら青空!なんだこの極端!あああ空気が柔らかい…!
───なわけあるか
「気分だっつの!」
俺がイカロスに主張してる横で、アスベルとヒューバートがラントの警備の人に説明していた。あー領主の息子だもんなー…驚くよな。
「しかしアスベルのあの威厳のなさはどうなんだ?」
「…それは言ってやるな。誰にでも分け隔てなく接する、それがアスベルの長所だからな」
「…短所にもなるよな」
フォロー入れてくれた教官にゃ悪いが、アスベルいつか騙されそうで怖いのは俺だけじゃないよな?
「あーラントだー!久しぶりー!なんか懐かしいー!」
空が青いことにやたらテンション上がってはしゃぎ回った。ストラタの空とはちょっと色違うんだよな。だいたいあそこ周り黄色だし。あー緑ー癒されるー…。
「っと…ソフィちょっとこっち」
相変わらずなんだか色の薄いソフィの手を引いて、道の端に座らせる。
まだかろうじて輪郭くらいはわかるらしいソフィが、ゆっくり首を傾げた。
「…お花?」
「うん。これ裏山にも咲いてたな…クロソフィはさすがにないか」
いくつか摘んでソフィに持たせた。ダメになってるのは視覚だけのソフィが、「いい匂い」と言って笑った。
「っし、じゃ行くかー!」
次は王子も混ぜて全員で、あの花畑に行きたいと思った。
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