越えられない壁の前で
うっすらと目を開けると、俺を覗き込むイカロスの顔が見えた。
「…いかろす」
『まだ本調子じゃねぇんだろ。寝とけ』
言ってイカロスは、肩越しにキツい目線を投げた。…なんだ?
つかここどこよ。さっきまでの金属打ちっぱなしじゃなくて全体的に白い。あー…駄目だ焦点合わねーわ。つかアスベルたちどこ行ったの。
と、イカロスの背後、肩越しに見える扉が開いた。
「……っ!」
『ゆきみちっ』
殺気にあてられて意識飛びかけた。イカロスが咄嗟に跳ねた肩掴んでくれたからどうにか保ったけど。ちょ、何これ何事!
「い、かろ…ここどこ」
『目的地。カーツさんの部屋。ほら向こうに本人』
イカロスに支えられて体を起こす。頭ぐらぐらする…やばいな。
「久しぶりだと言いたいが、素直に旧交を温められそうな雰囲気ではないな」
あれがカーツさん、か。
とりあえず前髪一房だけ銀なのはどういうことだ。そしてそのやたらでかい槍もどき(ガンブレードもどきでもあるかな)常に持ち歩いてんですか!?重くね!?
「カーツ。オレたちはお前に話があってきた」
カーツさんがちらっとこっちを見た。
反射で怖いと思った。
『…覚悟は決まってる、か』
この人は止まらない。この先何があっても止まらない覚悟を決めている。
何を言っても聞いてくれないことがわかったから悲しくてちょっと泣いた。
「我々にはもう時間がないのだ。今実験をやらなければ、我が国の国民の生活は最悪の状況となる」
『死んだら最悪どころじゃねぇだろ』
聞こえても意味がないことを知ってるから、イカロスは聞こえないように言った。
帰りもやっぱり立てなかったから教官の背中に乗った。…凹んでるときに無駄に労働させてすんません。
さぁ行こうってときに背中を向けたままのカーツさんが言った。
「…実験は明日の十時からだ。ザヴェートからは二時間ほどかかるから、支度は早めに済まさねばならんな」
「…それ俺らに言っていいんスか」
「さぁ、空耳かな。今この部屋には私しかいないはずだが」
うわぁ白々しい。笑える。
笑ってたら眩暈がひどくなって黙った。
『あほらし…』
「そゆこと言わない」
俺の中に戻るイカロスに言って、また少し泣いた。
いい人だ。
いい人なのに。
交わらない交われない道が悲しくて泣いた。
───同情で泣く余裕があるなら倒れんな
わかってる、返した後の記憶はなくて、どうやら泣き寝入りしたらしい。うわぁ…はず。
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