イカロスのが勘はいいんだよ
※唐突にぎじんかイカロス視点
『何見てんの?』
ひょい、と教官の顔を覗き込むと、不意討ちでずいぶん驚かれた。
熱出してぶっ倒れたゆきみちを背負いつつたどり着いたカーツだか何だかさんの部屋で、それぞれ情報収拾中。教官が書類を手にとるでもなくぼうっとしてるから声かけてみたんだけど。
教官が見てた方に目をやるとフォトフレームがひとつ。人物が三人。全員フェンデルの軍服を来ている。
『…あ、これ教官?若ーい』
「…二十年前の写真だからな」
教官はどこか苦く笑った。ああ、改革失敗する前ね。教官と、あと男女各一人。男の方はこの部屋にあるからカーツさんだとして、あと一人は?
『恋人?』
「いや。カーツとオレの同僚だ」
シェリア、さりげなく聞き耳立てて舌打ちすんな。
まぁ嘘っぽいけどな、少なくとも教官はちょっといいなくらいは思ってただろ。改革失敗のあおりで死んだか国外逃亡からこっち疎遠か…三文芝居だな。本人たちの苦しみは本物だけど。ありふれすぎて何も思わない。
ゆきみちなら違うのかな、思った自分に笑った。あいつも自分なのに、俺は何を考えてる。
「どうした?」
『別に。ほら思い出に浸ってないで大輝石の場所探せよ』
強めに教官の背を叩いてその場を離れた。
ちら、と見た先に座り込むゆきみち。や、ほぼ寝てんな。熱はずいぶん高いらしい。
本来俺が外にいるだけでゆきみちには多かれ少なかれ負荷がかかる。弱ってる今は当然大きい。なのに表に出てる理由は、保険だ。
こいつらがうっかり死んだら俺がゆきみち抱えて逃げなきゃな。
平然とこいつらを信じない思考回路にゆきみちがどんな反応をするか、想像して暗く嗤いながら、パスカルの声に答えて側へ寄った。
火属性なのに流氷の中かよ。
『…いや、正しいのか』
ストラタの大輝石も、水の要素を吸う性質を持ってた。周りが砂漠なのはそのせいらしい。だったら火の大輝石が、熱を吸って周りの温度必要以上に下げてもおかしくない。
『放出型じゃねぇんだもんなー…』
「んん?なんか言った?」
『あー、ここの大輝石が熱を集めるんじゃなくて周りにばらまくタイプだったらフェンデルもストラタばりに暑かったんだろうなーって』
むしろ別の意味で人住めねぇな、言った俺にパスカルがのってきた。
「じゃあストラタは水びたし?」
『あー…うまく日照時間とか季節風とか合えば熱帯雨林かな。でなきゃ一年中霧の沼地とか』
「そうなると、一番厳しいのはウィンドルになるかもね。ずっと冷たい風が吹いてたら植物は育ちにくいだろうし」
『…フェンデルの人には悪いが収集型でよかった』
ウィンドルの地平線まで草原!てのが地味に気に入ってるから。あれ、でもこの理屈だとウィンドル無風になってもおかしくないな。
「風の原素は動いていることが重要だからね。大輝石に集められる時点で空気が動くし、緩やかに大輝石の周りを巡って外側へ行くみたい」
『じゃああれだけ半放出型?』
あーでもストラタのも「大輝石のおかげで水がある」みたいな話聞いたしな。一極集中なわけだ。…フェンデルの大輝石に集まった熱はどこ行くんだ?
「イカロス、もう行きましょう。ゆきみちを早く休ませないと」
『ん、おー』
やっべ忘れてた。帰りに問題がないようなら俺ゆきみちの中に戻って回復に専念した方がいいかな。
そう思ったとき、扉の外に人の気配がした。
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