考えることはたくさん
「ねぇフェルマー、その入館証ちょっと貸してくんない?あたし前から一度政府塔にの中に入ってみたかったんだ」
「ええ?でも…」
「お願い!すぐ返すから。ちょっと中を見物してくるだけ」
「………わかったわ。他ならぬパスカルちゃんの頼みですもの」
そんな感じで、カーツさんとやらが多分いる政府塔の、少なくとも入り口は突破できることになった。…ノリが軽い。つかそれでいいのかアンマルチア族。
「やれやれ…厳しい警備もこんなものか」
教官が複雑そうに溜め息を吐いた。
見た目に反して。
「…エレベーターくらい作れないのかなー、なんて」
こう…上と下の重さの差とかで上下するやつ。前に漫画で水上エレベーターとか載ってたし。上上がるのに三十分くらいかかるけど。
「いやこの移動床とか。一個ずつ操作パネル欲しいなーなんて」
「まったく…立派なの外見だけで、中身はボロボロじゃないですか!」
「それが、このフェンデルという国の実体なのかもな…」
アスベルにつられて溜め息。マジ幸せ逃げそう。
「…教官には悪いけどさー、政治家なんて半分が馬鹿だと思ってたけどフェンデル最低ラインだわ。誰か一国総中流とかやれよみたいな」
あんまり山崩したりはしてほしくないけどね。日本人としては。
あー駄目だイラついていやがる。俺が。
───教官の凹んだ顔で溜飲下げた?
───最低
イカロスがくすくす笑う。
「わかってるっつかイカロス喋ると頭から考えてたこと零れるからやめろ…」
がりがり頭を掻く。
考えることなら山積み。ソフィのことリチャードのこと、凹んだ教官見るのほんとはほんとに嫌だからフォロー入れておきたいし、パスカルの顔見りゃフーリエさんのこと思い出してなんとかしたいって思う。
何より大輝石。実験を止めてリチャードぶん殴って、パスカルがいるからには原素の抽出機器作るまでやらないと駄目だろう。
抽出量の絶対値が決まってるなら絶対そこから越えないように安全装置何重にもかけて、うー…電線みたくはいかないだろうし、やっぱりベラニックまで原素持ってくの無理か?
「ヒューだってまだ馴染んだとは言えないし…」
あ、やばい頭痛くなってきた。なんでこんな問題ごろごろしてんだろ。意味がわからない…あ、ガチで眩暈してきた。
くらん、てして顔に手をやって、しばらく止まってれば大丈夫だろうと安定させるためにちょっと後足を引いた。
床がなかった。
「え、」
あー倒れるかな、とか思った。意外と冷静。ていうかどう倒れたんだ。
「…ゆきみち!」
ぐらん、ともうひとつ視界が揺れた。手が痛い。えーとどうなったんだ。
気付くと教官の顔が近い。抱えられているらしい。
───馬鹿、自覚症状ないにもほどあるだろ!
「いかろ…す、俺、」
───足踏み外しかけて吹き抜けまっ逆さま一歩手前だったんだよ!
───教官が腕引いてくれてなきゃ今頃血肉でジャムできてんぜ!
「あー…」
眩暈起こしたとき足引きすぎたわけね。てか俺そんな下がってたっけ。
教官が溜め息を吐いた。
「見つけたときは肝が冷えたぞ。何かあったのか」
「何かっつか…」
頭使いすぎ、とか?うわ泣きたい、俺そんなに普段頭使ってないのか。
「ちょっとごめんなさい、……ちょっとゆきみち、あなた熱があるわよ」
知恵熱まで出てんのか。阿呆すぎる。
あーあーくそ頭回んねぇ、熱出してる暇がどこにあるよ。
───考えすぎと寒さだな
───任せて寝とけ、お前がソレだと俺も調子出ない
「つったって…」
敵陣地ど真ん中、足手まといにしかならない状況で寝てられるかよ。
「すんません教官、立ちます」
よく見ると俺は半ば床に寝せられていて、側にいた教官の肩を借りて立とうとしたら止められた。
「…教官?」
「俺が抱えていく。戦闘は頼んだ」
「わかりました」
「今更戻るわけにはいきません。速やかにカーツ氏に面会し、目的を果たしてから医者に看せるのがいいでしょう」
「じゃ、早く行こっ」
「…ゆきみちは大丈夫?」
「大丈夫よ。…あなたも、少し眠るといいわ。あとは私たちに任せて?」
優しく笑うシェリアを見て、意識が途切れた。
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