兄弟とかって憧れるけどけっこうめんどくさかったりするよね
パスカルの姉貴の研究所に着きました。
正直ごっさ不安です。
「何せパスカルの姉貴だもんなー…」
視覚的に怖くなくても精神的に怖い人の可能性大。
「どうしたの、ゆきみち。溜め息なんて吐いて…」
「あーシェリア。いやちょっとパスカルの姉貴の人柄について」
「……だ、大丈夫よ。パスカルだって悪い人じゃあないんだし」
「いや知ってるけど。それは知ってるけど。なんていうかあの大人になり切らない無邪気さに不安要因が」
───タイミング悪くて実験台にされたりしてな
「お願いやめてイカロスー!」
ぎゃあぎゃあ騒いでたら魔物が寄ってきた。つかなんでいんの!?
「余計な手間を増やさないで下さい!」
双銃どかどか撃ちながらヒューバートが怒鳴る。すんません。
「見たことのない種類ばかりだな」
ぱしっと投剣受け止めながら教官が言う。
「フェンデルの固有種って全部わかるんですか?」
「全部とは言わないが…ここまで多いと、少しな」
わかんなすぎておかしいってか。
「そして会話に隠れて怪我すんなアス!」
「…っ…すまない」
「謝るなら無茶やんな。イカロス、ディアラマ」
癒しの光を降らせてる間にソフィが残りを片付けて終わりになった。
そのソフィが壁際のフラスコ(多分)を指して言う。
「この魔物、何かヘン」
「言われて見れば……檻に入れられたっていうより、最初から檻の中に入ってたって感じかしら」
ははは。さすがパスカルの姉貴…。
───造ったな
「やめてってそーゆーの…」
この世界の神様が誰だか知らないけど、そのうちガチで怒られんぜ?
「パスカルって人間関係で悩むことなさそうだったんだけど、」
───意外なとこに火種あったな
「意外ってんでもないだろ」
研究所を出てほうっと白い息を吐く。
私が必死で努力してたどり着いた先に、いつもあなたが先回りをしてる。その気持ちがわかる!?
フーリエさんは結構まともな感じの美人だった。つかアンマルチア族は北国の生まれなのになんであんな薄着かね、パスカルといいポアソンといいフーリエさんといい。
「姉妹なら否応なしに近いからなー…」
ずっとずっと側で見てきた。妹を誇らしく思うのも事実だけど、同時に嫉妬を含むことくらいは簡単に想像できる。
───そういう声に気付かないからパスカルはあんな馬鹿になったんだろうしな
「いい意味でも悪い意味でも他人の評価気にしない人だもんなー」
でもさすがに尊敬する「お姉ちゃん」にそれを言われたのは堪えたらしい。
列の最後尾、うなだれるパスカルを振り返ると、パスカルが顔を上げた。
「……あたし、やっぱりお姉ちゃんに謝ってくる」
「やめた方がいいと思います」
俺が何か言う前にパスカルを止めたのはヒューバートだった。
───へぇ……「任務に支障が出るからやめろ」じゃなくて思う、か
───ゆきみち、ヒューバートに任せてみれば?
「イカロス…?」
や、基本イカロスのが勘はいいから言うこと聞くけどね。
「彼女が再び立ち上がるためには、自分で自分を認められるようにするしかありません。……へたな同情は、よけいに傷つけるだけです」
───正論だな
まあね、とイカロスにしか聞こえない声で呟く。
結局自分がキライなやつがペルソナ出してるみたいなもんだからなー。キライな自分も自分でしかないことを認めなきゃ、どんどん歪んで壊れちゃうわけだし。
───そういう意味ではいい機会かもな、あの姉妹にとっては
「ごめんそこまで俺悟れない」
パスカルがちょっと泣きそうに言った。
「いつかわかってくれるかな……あたしがお姉ちゃんを好きだってこと……」
「パスカル……」
その点に関しちゃ大丈夫だと思うけどね。まっさらな笑顔で「お姉ちゃん!」って飛びついて来るパスカル幼少期が目に浮かぶわー。アレを振り切るのは難しいだろ。
「大丈夫。いつかわかってくれるさ。大輝石の実験を止められるのはパスカルしかいない……そうわかっていても、姉として負けたくなくてああいうしかなかったんだ」
複雑な家族関係持ってんのがここにも二人ばかしいるしね。
「フーリエさんの努力が人々の命を奪った、なんて悲しいことにならないためにも……なんとしても実験をやめさせよう。もちろん俺たちも協力する」
そうしてアスベルは笑う。…こっちは劣等感持ってたの弟の方だな。
強くて優しくておっちょこちょいだけど頼れる兄さん。追い付きたくて努力して、あっさり勝っちゃって…砂漠の試合には、「やっぱり兄さんは強い」ってことを確認したいってのもあったのかな。都合いいか、さすがに。
「しっかりして下さい。お姉さんを救えるのはあなただけなんですよ。ぼくらとしても……あなたがいないと始まらないんですから」
おろ。
ヒューバートが眼鏡を直す。表情をごまかしたいときのヒューバートの癖だ。…これ直した方がいいんじゃないかな、多分軍部内のライバルにばれてるぜ。
「まぁ俺はわかりやすいから直してほしくないけど」
小さく呟く。聞こえてないな、よし。
「一緒に……行きましょう」
「弟くん……」
本格的に泣きだしたらしいパスカルの頭をソフィが撫でた。合間から「ありがとう」が何度も聞こえる。
───ヒューバートがデレた…
「ふふー、だーいぶ馴染んだかな」
ヒューバートってシェリア好きなんじゃ、とかラントの三角関係地味に気にしてたりしたんだけど、パスカルとくっつくならそれでもいいかな。いやそんな意味ないんだろうけどね、ヒューバートだし。
「ヒューバート……お前……」
「兄弟のことで悩む気持ちは、ぼくにも一応わかりますから……それに、賑やかな人がいた方が寒さもまぎれます」
「んじゃ、パスカル泣きやんだら出発ってことで」
すぐさま「さっき散々泣いた人がそれを言いますか」って返されて沈んだ。くそう切れ味変わらねぇ…。
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