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ゲーム/虚構
道に溜まってる雪を一掴み、握って固めて落とした。
固くてつめたい。体温で溶けた雪が水になって手を濡らした。

「…ゲーム、か」

固めた雪と滴った水で跡のついた雪をぼんやり眺める。

「ゆきみち、どうした?」
「なんでもね。今行く!」

アスベルの声に答えて走る。爪先が冷えてむしろ痛い。深く積もった雪に足をとられて走りにくい。

───でもここは現実じゃない

イカロスが囁いた。

「現実だよ。アスたちにとっては」

───お前にとっては?

「…現実であってほしいんだけどな…」

空を見上げる。雪が目に入って小さく悲鳴を上げた。
こんなにリアルなのにどこにもこの場所はない。

───その前に帰れるのかよ

「知んねぇよ…そもそもなんでここにいるかもわかんないし」

ゲームを始める前に飛ばされた。俺はこのゲームのことをろくに知らないから夢ではないはずだ。

───夢だったら俺がそう言うし

「だよなー。つかどんだけ長い夢だよ。もう一月二月じゃ足んねぇぜ?」

七年タイムスリップしたことを抜かしても、ウィンドルとストラタと、フェンデルまで来てだいぶん日数も経っている。

「あーでも一炊の夢ってゆーし」

───だから、そんな長い間寝てたらこんなのんきに会話してないで叩き起こすっつの

イカロスが若干いらついた調子で言った。
イカロスは俺を守るために生まれたものだ。食うだのなんだの言ってても、そもそも俺の体が死んだらペルソナは存在できないんだから、いざというときは全力で守ってくれる。

「だから不思議なんだよな。仮にもイザナミが護ってる土地で、よりによってペルソナ使いの俺が、あっさり異世界に迷い込むか?」

だいたいそんなことそうそう起こってたまるかよ。言って溜め息を吐いて、ソフィが近付いてくるのに気付いた。

「どうしたソフィ」
「ヒューバートとシェリアが」

つ、とソフィが指した先を見ると、ヒューバートが何か言ってる横でシェリアが足をかばっていた。

「…そうか、とうとうあのスカートやめる気になったか…」
「ゆきみち、止めないの?」
「この場合ヒューが正しい」

首を傾げるソフィの頭をなんとなく撫でてると、ソフィが逆側に首を倒した。

「…ゆきみち、どうしたの?」
「何が?」
「泣きそうな顔、してる」

ひゅ、と喉が鳴った。
…こんなことしてても稲葉ではこいつら全員いないことになってるんだ。
こいつらはどこにも存在しない。

「………ぁ、ぐ、あ…!」
「ゆきみち!」
「どうした!…大丈夫か!?」
「何があった?」
「やだ、ゆきみち…しっかりして」
「いったい何が…」
「うわっ、ゆきみち!?」

声が上から降ってくる。倒れ…はしてないにしろ、みっともないかっこはしてるんだろうな。
いい人たちなのに。
こんないい人たちなのに。
俺の住んでた世界ではこいつらはみんなつくりものなんだ。
悲鳴じみた泣き声を上げる俺を、イカロスが黙って見ている気がした。


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