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いのししと生存本能と友達
「何か聞こえる」

ソフィが呟いたから全員周りを見回した。
ふと振り返るといのししがいた。派手なカラーリング。牙だか角だかわかんないなあれ。
ヒューバートが背を向けて肩を竦めた。

「たかがいのししです。そう慌てなくても……」

お前それは油断しすぎだ!そんなにさっきの迷子ショックだったか!?

「弟くん背中見せちゃだめ!危ない!」

パスカルの声が飛ぶ。フェンデル着いてこっち割と真面目だよね。…割と。
どん、と音がした。

「…パスカル!ヒュー!」

雪の中に転がった二人を呼ぶ。パスカルの側にシェリアが走った。よかった…二人とも割に大丈夫そう。

「……いてて。弟くん……大丈夫?」
「ヒュー、怪我は?頭打ってないか?」
「え、ええ」

答えながら、ヒューバートの目は倒れたパスカルから外れない。ははは…後で凹むな。フォロー大変だわ。

「全員身構えるんだ!」

特に影響なかった教官が言う。ぱっと立ち上がったヒューバートは大丈夫と判断して、俺は少し後ろの方で召喚器を構えた。

「この辺は、気候が厳しいせいで野生動物といえども凶暴だ。背を見せたら襲ってくるぞ!」
「早く言ってくださいそゆことは!」

イカロスを呼ぶ。あーストラタと違っておもいっきりアギ系使えるかららくちん!

「丸焼きにしてやんぜ!」
「あ、そしたら里のみんなへのお土産にしよ!」

パスカル…立ち直り早いな。






倒した後でやっぱりヒューバートが凹んでいた。パスカルが気にしてないのが逆に痛いんだろな。難しい。

「なんで……笑えるんですか……」

むしろお前泣きそうだよね。

「あなたも……!もっとぼくを責めてもかまいませんよ、マリクさん」
「百戦錬磨の達人でも一度の油断が命取りになることもある」

きっつ。さすが教官、その辺はばっさり。
ヒューバートが俯いて「そう、ですね」とぼそぼそ言った。あー痛そうな顔してる。

「……しかし君は自らの過ちを認めることができている。その素直さがあれば二度と同じことは繰り返さないだろう」
「教官は、俺にもそうやって色々なことを教えてくれましたね」

アスベルが懐かしそうに言った。いっぺん落とすわけ?容赦な…落としっぱなしじゃないから懐かれてんだろうけど。

「……ぼくを、責めないんですか」

ヒューバートは途方にくれた顔をした。迷子みたい。

「…ねぇアスベル、ヒューのストラタ生活考えると泣きそうなんだけど俺」
「私も…」

アスベルに言ったのにシェリアに同意されてしまった。
失敗したら嗤われる世界だ。他人の失敗を嗤って踏み台にする世界だ。

「自らの過ちを責めている者をさらに責めたてる趣味はないのでな」

教官の大人の対応は、多分今のヒューバートには何より痛い。
ああっヒューバート泣きそう、俺マジ泣きしてる人見るともらい泣きするんだよやめてって!

「マリクさん……」
「それに、みな無事だったんだ。よしとしよう」

なぁパスカル?
教官がパスカルに話を振った。パスカルは相変わらず笑っていた。

「そうそう。問題なしだよ」

ねぇヒューバートの周りにいる大人どんだけ大人気ない奴ばっかだったの。児童書開くだけで同じようなセリフ並んでるぜ。俺むしろ聞き飽きたレベルだぜ。

「でも、それでは…ぼくの気が済みません。借りを作ったままなのは嫌なんです……」

うん、まぁその気持ちもわかる。「借り」って言っちゃうあたり硬いけどね。
パスカルは少し考え込んだ。

「う〜ん、そこまで言うなら……じゃあこのいのしし、里まで運んでもらっちゃおうかな」

ちなみに角だけでソフィの身長くらいあるいのししである。

「かなりでかいよな……このいのしし」

アスベルのコメントにシェリアとソフィが頷いた。ヒューバートは固まっている。

「…えーと、お土産にしたいならイカロス呼ぶから別のことにしない…?」

呼びっぱなしはキツいけど、さすがにヒューバート一人でこれは無茶。
言うと、じゃあ、と言ってパスカルがヒューバートに近づいた。
そしてヒューバートの手をとって振り回す。

「今から弟くんとあたしは友達ね!」

面食らった顔のヒューバートが少し笑って、俺はちょっと安心して息を吐いた。


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