その夜
パスカルが「寒い眠い」と癇癪を起こしたのでお開きになった。パスカルに窮地を救われる日が来るとは思わなかったんだぜ…。
「…ぼくはまだ諦めていませんからね」
階段の途中でヒューバートに囁かれた。んなこと言われても、なぁ。
「や、俺元々二回説明するのイヤだから今まで言ってないんだぜ?」
いない人に説明もっかいすんの嫌。
「では、今は説明してもいいわけですね」
「んー、王子いないしなー…ほんとはやなんだけど」
リチャード戻って来るの時間かかりそうだしな。…って時間かけちゃ駄目だろ。
「そろそろいい、かなぁ…あーでもパスカル優先のがいいと思うよ?」
「その理由は」
「俺の正体がなんであろうと誰の損得にもならないから」
元々この世界にはいなかった人間だしな。影響なんざ出ないだろう。
と思ったんだけどあっさり否定された。
「あなたの力は十分な脅威となり得ます。…反政府組織に洗脳でもされれば、国際情勢は容易に混乱するでしょう」
げ。そうだよイカロスって人型とれるよーになっちゃったから暗殺とかふつーにできちゃうじゃん。
「…わぁい俺知らない間に重要人物になってる」
嬉しくない。
「そういうわけで、あなたからも目を放すわけにはいかないんです。…おやすみなさい」
ヒューバートは部屋の戸を閉めた。立て付けが悪いから嫌に軋む。
───悲しい?
「…ん」
教官はバーに飲みに行ったから俺一人で、靴のまんまベッドに転がった。
「…ヒューがさ。嫌そうな顔してたのが救いだよな」
───本気で嫌われてるだけじゃね?
「だったらもっと徹底的に斬るだろヒューなら」
───作戦だったりして
「そういうつくりごとに敏感なのはイカロスの方だろー」
はかりごととも言う。
───お前俺のこと信用してていいの?
───食われるよ?
「自分信用しなくてどーすんの。つかイカロスはそういう食い方はできないだろ」
イカロスは俺から生まれた別でありながら俺と同一であるものだ。多重人格とかより近いと俺は勝手に思っている。
───過信してると足とられるぜ
「これは過信じゃないし俺の足引っ張る油断と慢心はイカロスが徹底的に排除してくれてるだろ」
痛みをもって。
ゆるりと目を閉じた。あーちょっと疲れたかな、眠い…。
───靴くらい脱げ馬鹿
「んー…」
靴をかろうじてベッドの下に落として、そこから先は覚えていない。
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