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教官の重い話
角をあげた宿屋の子供兄妹が親に俺らのことを報告してくれたらしく、今日の宿賃は無しでいいと言われた。
夕飯は心尽くし。豪勢ではないけどベラニックの経済状況鑑みると涙出そうな内容で、全部ありがたく頂いた。マジありがとうございます。

「あったまったし食べたし飲んだし」

今日とった男部屋、のひとつ(俺と教官の部屋)にみんなが集まった。

「話聞かせてもらいましょーか」
「…簡潔にで構わんか?」

教官が根負けしたように溜め息を吐いた。

「俺はぶっちゃけ詳しく聞きたくないけど今後ずっとヒューに睨まれたくないならちゃんと話した方がいいと思いますっ」
「…お前が話せと迫ったんだろうに」
「あそこまで疑わしい要素並べ立てられりゃ迫りたくもなりますって」

ただでさえイカロス出てきてからネガティブ落ちやすいのにさ。
教官はもうひとつ溜め息を吐いた。

「………オレは昔、フェンデル軍に属していた」

強いわけだね。

「当時、若い将校の中で改革運動が起きていた。フェンデルの状況は今とほぼ変わらず…いや、今の方が悪いか。とにかく、一部の富裕層に富が集中する国の体制を変えようと、オレを含めた一部の将校が動いていた」

今の状況考えると失敗したんだろうけどな。ストラタとかウィンドルにいたのもその辺が原因か。

「そしてある時、オレは同士の一人が大総統の子供であることに気付いた」

大総統!どんだけドイツ!ちょびひげ生えてんの?
なんて俺が馬鹿なこと考えてる横でヒューバートが言った。

「その方に裏切られた、と?」
「いや…オレはそいつの理想やそれに向ける情熱を疑ったことはない。
だからこそ不安になった。大総統の子供であることを利用して、そいつは何度も重要機密を持ち出した。それが大総統に気付かれればどうなる?…オレは仲間にそいつから情報を得ることを止めるよう提案した」
「そして、却下されたわけですか」

教官は黙って頷いた。
俺は呻きながら頭をがりがり掻いた。

「…できるだけ早く正確で確実な情報がほしいってのはわかるんだけどなー…」
「その人がかわいそう…まるで、利用するためだけに仲間って呼んでいるみたい」

シェリアが祈るように両手を組んだ。
ヒューバートがくい、と眼鏡を押し上げた。

「当然でしょう。目的のために手段を選ばないのはよくあることです」
「よくあるけど嫌なことではあるだろ」

少なくとも俺は嫌だね。この国を変えたいって中身じゃなく、大総統の子供って外身だけ見てる。
教官は苦く笑った。

「オレはそいつに、仲間内でお前が大総統側に情報を流していると疑う者がいる、と言った。オレもその一人だと。
だがそいつはそれからも情報を流し続けた。やがてそいつは志半ばで倒れ、改革は失敗、仲間は散り散りになり、オレは国を棄てて逃げ出した…というわけだ」

オレの話はこれで終わりだ、教官はそう言って、きつそうなウィスキーをコップに注いで呷った。
部屋で飲むのは珍しいな。…やな話させたからですね。あー罪悪感。

「…すんません、やなこと思い出させて」
「構わん。この国に来た時点で、いつかは話さなければならなかった話だ」

パスカルまで空気読んで黙ってるし。俺が空気壊さなきゃですかそうですか。

「その話が本当である保証はどこにありますか」

珍しいヒューバートがクラッシャーだ。

「ていうかお前ェェエエェ!普段空気読みすぎて溜め息吐いてるよーな奴がクラッシャー任ったと思ったらそのセリフってお前それは失礼だろうよ!」

ヒューバートの襟首掴んでがっくがっく揺さ振ってシェリアが止めるまで続けた。目ぇ回すがいい。

「どうやらオレは、何を言っても信用してはもらえんらしいな」
「…今の今まで黙っていた、ということは、後ろ暗い理由があると勘ぐられても文句は言えませんよ」
「疑ってんのほぼお前だけだっつの」
「兄さんは重度のお人好しですからね。ぼくが気を付けるしかないんですよ。
…さて、そろそろあなたの話もして頂きましょうか」

勘弁してくれよ、と俺は溜め息を吐いた。


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