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オトコノコの本能
闘技島。

「RPGにつきものだよね」
『普通は闘技場だけどな』

剥き出しの木の柱がかがり火の煙と煙草と酒の染みにまみれて独特の色に染まっている。
汗臭くて酒臭くて荒削りで、首筋ちりちりするくらいアブナくて、かがり火が嫌に似合ってて、無理やり心拍数上げさせられるみたいな。

「ははは。…俺の実力じゃ出らんないけど」
『俺のこと馬鹿にしてない?』
「してない。多分俺とイカロス、二人でカウントされるから人数オーバーだろ。俺自身はぶっちゃけ弱いし」
『自分の手で傷つけるのはやだー、なんて甘いこと言ってるしな』
「うっさい」

ちなみに今現実逃避中ですよ。
なぜって?

「…おとなしくしてろって言われてんのにさパスカル…」

フェンデル軍の将校に絡まれています現在進行形。かっこパスカルのせい。
とりあえずヒューバートが収めたけど参加確定しました。どういう流れこれ。

「とりあえずヒューバート有能。さすが」
「スパイは完全に身動きがとれないようですからね。どうすればいいか考えていたところです」

くいっと眼鏡を上げる仕草がやたらサマになってる。いい男に育ったよねほんと。

「しかもいじると面白いとか最強」

後ろから抱きついてぐりぐり頭撫でてみた。「やめて下さい!」ってじたばたしてもーあーかわいい。ひいき?

「……そして冷静に肘を入れるなよ…」
「自業自得です」

いきなり静かになったと思ったら鳩尾狙われました。痛いっス。
ところで、とヒューバートは俺がうずくまってんの無視で言った。

「あなたは参加するんですか?」
「しねぇよ。イカロスと出ないと役に立たねぇもん」
「そうですか。ならぼくと兄さんと…」
『ヒューバート』

突然イカロスが声を上げた。

『俺が出る』
「は?お前あのかっこで出る気?即退場食らうのオチじゃんよ」

イカロスの基本は身長3メーター越えのギリシャ少年だ。しかも仮面つき。はぐれ魔物扱いで退治されるのがオチである。

『大丈夫』

ずるり、
体から何かが抜けてく感触がした。
後ろから腕が回ってきて首に巻き付く。黒い袖、口が広くて指先しか出てない。

『こっちで行くから』

肩口に俺と同じ顔が乗って、金色の目が細くなった。

「…イカロス?」

ていうか俺の影。
テレビの中で最初に会ったとき、イカロスはこういう姿をしていた。真っ黒い服から地肌が覗いているのは指先と顔だけ、俺と同じ顔と声と、唯一目だけがいっそ虚ろに金色で。

『ヒューバート?』
「っ、は、え」
『いいから登録申請してこいよ。俺とお前とアスベル、もう一人はそっちで好きに決めていい。どっちにしろ俺が遠距離専門なのは変わんないから、そこらへんのバランスはちゃんと考えろよ』

言いながらイカロスはさくさく歩いてく。…いやそんな顔されても困るよヒューバート、俺だって初めて知ったし。

「いつの間に実体化できるよーになったわけ!?」
『知るか。できそうだったからやってみただけ』
「そんなに出たかったのイカロス…」
『出たかったのはお前だろ、ゆきみち』

イカロスは振り返ってにぃっと笑った。

『忘れた?俺はお前なんだから』
「…そうでした」

笑う。
…うん、まぁ、男の子ですから。勝負事にはマジになります。ぶっちゃけ怖いのと同時に憧れた。力でもって他人を圧倒すること。
「怖い」方向に比重が傾くのは現代人特有の怠惰と俺個人の怯惰のせいだろうけど。

「…よーしイカロス頑張ってこい!」
『おうっ!』
「どうしていつの間に出るのが決定しているんですか!」

ヒューバートの叫びが響いた。


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あきゅろす。
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