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脳内会議
※割と乱暴に暗い描写あり。


甲板にて、イカロスと脳内会議中でーす。俺は声出てるから怪しい人だけどね。

───教官といいパスカルといい…考えてみりゃ怪しいやつばっかだな、このパーティ

「否定はしないけどさ…いい人たちだと思うよ?」

───幾月さんはどうした

「元々イカロスがキライだったんじゃんかあの人。教官とパスカルはどうよ。キライ?」

───生田目はいい人だけど間違った
───間違えない保証はない

「そんなのお互いさまだろ。生田目はともかく、教官とパスカルはこんなに近くにいるんだ」

───リチャードは?

「っ、」

───止められないどころか、下手したら世界の敵だぜ、あいつ
───殺さないと止められなくなったらどうすんの、お優しいゆきみちくんは

「…俺だけで決めていい話じゃない」

───それでアスベルにやらせるわけ?
───騎士にもなれず故郷を追い出され、主君の乱心の次は友達殺しか

「やめろ…っ」

───見ないふりなんてさせない
───本当にそうなったら、お前はきっとアスベルにそれを押し付ける

「うるさ、い」

───認めない気?
───ずるい自分、臆病な自分、見ないふり知らないふりでお前この先進めんの?

「ゆきみち」
「!」

振り返ったらヒューバートがいた。後ろのアスベルが心配そうな顔でこっちを見ている

「酔ったのか?気分が悪いなら、中で休んでいた方が…」
「や、いいよ。中の方がちょっと落ち着かなくてさ。ここの方がいい」

───こうやって、誰かが話切ってくれるからな

黙っててイカロス。
小さく呟いたのをヒューバートに聞かれていたらしい。

「…さっきから、何をぶつぶつ言っているんです?」
「え、イカロスと脳内会議…」
「話せるのか?」
「イカロスは俺の見たくない本心だから。嫌味言われちゃった」

あはは、と笑うと、アスベルは心配してくれたしヒューバートは眼鏡を直すふりで疑いの目線を向けた。

───心配されてよかったな

「アスだもん」

───計算して言っただろ

「話逸らしたかったからね」

イカロスに関しては、未だにうまく話す自信がない。

───わざわざ自分のキライな自分見せたがるやつもいないしな

「また脳内会議ですか?」
『混ぜてほしいならそう言えば?』
「ええっそんなスキル持ってたの!?俺知らないよ!?」

頭の中に響くんじゃなくてちゃんと耳から聞こえて驚いた。やっぱりどこか籠もってるのは、空気揺らして声伝えてるわけじゃないからかな。

『鼓膜は空気の振動受け取る器官なんだから空気揺らさなきゃ聞こえないだろ』
「ああそっか」
「イカロス…本当に?」

ヒューバートは忙しなく眼鏡に手をやっている。うん俺もびっくりした。

『疑う?
…そういえばヒューバート、お前教官たちのついでにゆきみちも疑ってるだろ』

イカロスが俺の中でにぃ、と笑った。

「否定はしません。あなた…あなた方には、不確定要素が多すぎる」
『だってさ。淋しいなぁ、あんなに可愛がってたヒューバートもこんな無愛想になっちまって、おまけにおもいっきり怪しまれてる』
「俺のついでにヒューまで馬鹿にすんのやめろ」

ヒューバートから目線を外して海を見た。ストラタの海は明るい色をしている。

「俺は二人を信じるのをやめないよ。疑って一人になるよりよっぽどましだ」
『孤独がそんなに怖い?それとも誰がどれだけ裏切ってもアスベルだけは側にいてくれるって慢心?』
「違う!」

叫んでも意味がないことは知ってる。でもせめてヒューバートのいないとこで言えよそれ…!

『否定したって無駄だってのにな。まぁいいや。お前が否定すればするだけ、俺はお前を食いやすくなる』

くすくす、笑い声を残して、イカロスは沈黙した。

「…ごめんな、やなもの見せて」

振り返って笑う。ちゃんと笑えてるか自信ない。

「…ずいぶん攻撃的ですね」
「ん…ヒューには話してないよな。
イカロスは俺の力、俺を守るための人格の鎧、俺の望みを映すと同時に闇も取り込んで形をつくる。
…今のは俺の本心でもあるんだ。きちんと整理して消化しないと、俺はいつかその闇に食われる…」

ヒューバートは黙っていた。考えをまとめているのかもしれない。

「俺は、さ。イカロスがいてよかったと思うよ?
でなきゃ俺はすぐ逃げて、最低なやつになるかもしれない」

半強制的に自分の嫌な部分と向き合わされるのは、キツいけど必要な痛みだ。誰だって痛い思いはできるだけしたくないから、俺はそういう意味では幸運だと思う。

「ヒューが俺を疑ってても、俺はヒューが大好きだからさ。ヒューが信じてくれたら嬉しい」
「…別にぼくは、あなたが憎くて疑っているわけではありません」
「教官とパスカルもね。だいじょーぶ、知ってる」

ヒューバートは真面目だから。ストラタの軍人として、ストラタの害になる人間は放っておけないんだろう。謎だからなー二人とも。

「つーかアスどこ行った?」
「ゆきみちー!」

てててっとアスベルが駆けてきた。手には水入りのコップ。

「…なしたのアス」
「やっぱり顔色が悪いな…水をもらってきた。少しは楽になるんじゃないかと思って」

アスベルが水を差し出すのを反射で受け取って、俺は笑い出した。

「え、ちょっと…ゆきみち?」

ああ、もう。
本気でこいつらいとおしいんだけどどうすればいいんだろう。


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