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異世界トリップってやつですね
気付くと視界いっぱいの青空。

(イザナミの楽園みたいだ)

不意に思い出して泣きたくなった。
そんな余裕は三秒後にはなくなったが。

「………いやいやいやちょっと待て───ッ!」

落ちた。不精して切ってない髪が風圧で上に流れる。
待って、待って俺ふつーに部屋でゲームしてただけだしこんな見事な青空の中に放り出される要素はどこにm

「へぶっ」

意外と落下地点は近かったらしい。おかげで思い切り背中打って息できないけどな!
あ、あ、やべマジ苦しい、息吸えな、

「…ひゅっ、あ、…ぁ」
「おい大丈夫か!?」
「駄目だよ、揺らしたら駄目、兄さん」

いっぺん白黒と化した視界が揺れた。うんマジやめてただでさえ呼吸困難なのに吐くそれは吐く。止めた方ナイス。
四つんばいになって脂汗垂らしながら荒い息吐いてる(これだけだとなんかエロいな)と、視界に小さな手とハンカチが入った。

「…あの、使ってください」
「…おー」

ありがたく受け取って額を拭って、ふと気付いた。

「…なんで俺制服着てんの」

登校日まで着ないからってクローゼットの奥にしまい込んだはずの八十神高校の制服だった。え、俺今日朝起きてから着替えてないはずなんだけど。
しかも右脚には召喚器のホルダー、尻ポケットになんか入ってると思ったら携帯まであった。
まるっきり、テレビの中に入るときの格好。

「…なにこれ」

携帯が圏外を示している画面を呆然と見てると、視界に茶色が割り込んだ。

「これなんだ?」
「うおっ」

反射で叩いてしまった。やっべ子供! 今俺意味もなく公園の幼稚園児転ばす大人気ない大人と同じことしたよ!

「わーごめんつい!反射で!」
「今のは兄さんが悪いよ」

頭を押さえてうずくまる(ごめん結構勢いついた)子供に、ちょっと年下っぽい青い髪の子が言う。それでも頭撫でてやるあたり仲良いんだろうな。後ろのピンクの髪の子も真似して撫でてる。こっちは二つ三つ上かなー、って。

(俺今すごく気付きたくなかった事実に気付いた!)

なんか服装がRPGだ。三人とも。
ぴしり、と固まった俺に、立ち直ったらしい茶色の髪の子が頭を下げた。

「…ごめんなさい」

いやそこで謝られると俺立場ない!

「や、俺だいぶ勢いつけてぶっちゃったし! むしろ俺ごめん!」

茶色の髪の子はにっと笑って「じゃああいこな」と言った。やべぇいい子だわ。親に感謝状送りたいわ。

「で、お前誰だ? なんで上から降って来たんだ?」

…ごめんそれ俺が知りたい。
青い髪の子が首を傾げた。

「…もしかして、あなたも記憶喪失?」

ぴこーん。
電球灯った。ナイスそれもらうわ。

「あーなんかそう、っぽい? なんでここにいるのかわかんないし俺」

二人は顔を見合わせた。

「…どうするの、兄さん。あの子も…」
「どうするって…」

二人が話してる間に俺は周りを見回した。うわ…すごい花畑。野生だよな。あの樹も…年輪すごそう。
ここは崖の端っこらしい。樹の背景は空と海の青。ふはー…ほんとにイザナミの楽園みたいだ。
見覚えのない景色、服、明らかに文化背景が違う三人。
これはあれか、クラスの腐女子がたまに叫んでるあれか。

「…どーしよっかなー」

ぶち抜きの青空に向けて溜め息。…わくわくしてないなんて言わないけど。


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