見逃しの代償
ちょっと本気でリチャードの正気を疑いたいな。
「ラントに攻め込むって…!」
ラントを取り返すってそーゆー意味かよ!嬉しくねぇよ!こないだフェンデルが来たばっかだっての!
「まず俺がヒューバートを説得しに行く」
「俺も行くかんな。ちょっと手紙出してくるわ、行くから今度は追い返すなよって」
かめにんに頼めばきっと早い。部屋を出ようとして向こうからドアが開いたからびっくりした。
「うっお」
「教官!?」
「話は聞かせてもらった」
教官が入ってきて腕組みをした。そーいや俺この人の名前聞いてないや。とりあえず、
「盗み聞きは犯罪っスよ教官」
「この辺りの部屋は密談防止に壁も戸も薄く作られていてな」
「ごまかすなよ」
とにかく教官も交えてラントへ向かうことになった。やー楽しみだなーヒューバート元気かなー。
「ていうか前衛少ねぇなこのパーティ」
「…そういえば」
ひそかにアスベルとソフィだけだったり。…大丈夫かな。
「ぃやほーヒュー!手紙届いた?」
執務室に入るとヒューバートはやっぱり仕事をしていた。
「手紙?…ああ、あの嫌がらせとしか思えない紙の束のことですか」
「だって嫌がらせだもん」
アスベルに冷たくした罰だ。日に三回以上出すことにしてたから今頃は山だろう。処理に困ればいいんだ。
「…いつの間に書いてたんだ?」
「合間にちまちまと。やー俺超頑張ったよー?文無しだからかめにんの荷物の積み卸しとかやって小金稼いでインクとペンと便箋と買ってさー」
不思議なのが日本語で書いてるはずなのにいつの間にかこっちの言語に置き換えられてることだね。気付いたときちょっと寒かった。そーいやこのこと考えようとか思ってたのに忘れてたな。
「暇な人ですね。おかげさまでウィンドルの詳細な情報が得られましたが」
「ん、ぶっちゃけそれも目当て。王様変わったら軍退いてくれないかなとか思ったけどやっぱ甘い?」
「当たり前です」
「というわけで要求したりんごをよこせ」
ラントのりんごおいしいんだよね。
あっさり「あげません」とぶった切るヒューバートの声にかぶって乱暴にドアが叩かれた。
「失礼します!」
「何事ですか」
「ウィンドル軍が全面に展開中!すでに市街地まで押し戻されています!」
「何をやってるのかなあのバカ王子は!」
もーいーや告げ口するよーな奴もいないだろ。あれアスベルって平和の使者じゃなかったっけ。ハトじゃなかったっけ服の色的な意味で。
「どこへ行くつもりですか!」
「王子んとこ!やっぱ駄目だわいっぺんあいつ殴ってくる!」
殴んないとわかんないらしいよあのお坊っちゃん。ていうか俺じゃなくてアスベルがやった方いいと思うけどね!
ヒューバートを振り切って窓から飛び出した。え、だって出入口付近人口密度高いもん。窓の方が早いー。どーせここ一階だし。
で、正面回ったとこで止まった。…手間省けたって喜ぶべきかね。
「やぁ。説得はできたかい?」
「言っとくが三割はお前のせーだからな。まだ世間話しか終わってねーよ、王子」
ああ、
そういえばこうなったこいつの顔をちゃんと見るのは初めてかな。
オーク色の目が片方赤くなってるのを見て思った。
…『リチャードの中に誰かいる』説、確定かよ。
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