治癒術士仮免(嘘)
そろそろ正気疑っていいかな。
「処刑ー!?」
アスベルが暗い顔で頷いた。
俺が中央塔から消えた後、なんとリチャードが捕虜全員の処刑を言い渡したという。いやあの感じだと言いそうだなーとか思った。思ったから逃げた。だってんなとこ見て俺キレない自信ないもん。ぜってー不敬罪とかで俺までぶち込まれんぜ。アスベルの謹慎もそんな感じだしなー。
「…リチャード…どうしたんだ…」
「わかんね。七年経って変わったっつったらそれまでだけど、なんかちょっと急変すぎる気もすんだよな」
ヒューバート?あいつはいいの、むしろいじりがいあるから嬉しい。シェリアに聞いてみたとこめっちゃ有能でラントは安定してるらしいし。さすが!
んでリチャードだけど、なんかやっぱヘンなんだよなー。ドS陛下か体調悪そうにしてるかどっちか。なんという両極端。セリフ拾ってくと…なんか、誰かと話してる、みたいな。イヤホンマイクで話してるみたいな。当然相手は見えないわけで。
(考えすぎだといいんだけど)
いや俺割とゲーマーだし(しかもRPG大好き)マンガもファンタジーも読むしさ、慣れてるわけこーゆー状況。ファンタジーズレしまくり。状況読めるんだよね。
…リチャードの中に誰かいる、とか。
「ないよな?」
呟くのと部屋の戸が開くのが同時だった。
リチャードには近づいちゃダメだけどついて来るのはいいよ、だとさ。
「門開けたのアスベル達じゃんよー」
「いくら友達だって言っても、リチャードは王子なんだ。仕方ないよ」
「あーもー貴族社会めんどくさい。むしろうざい」
「こら、そういうこと言わないの。誰かに聞かれたらそれこそ不敬罪よ?」
「知らなーい。俺はウィンドルの身分の外にいる人間だよ?」
王権神授説は早々に捨てた方がいいと思うんだ。リチャードは有能だからいいけど次とかその次とかがバカだったらどうする気だろ。
まぁとりあえず、
「シェリアがいると少なくとも死ぬ心配はないなー」
「何言ってるの、捕虜の傷のほとんどを治したのはあなただって聞いてるわよ?」
「シェリアごめんそれ地雷」
「え?」
凹んでます。あーあ、何人くらい死んじゃったのかな…リチャードのとこ行かないでさっさと行けばよかった。それでも間に合わないかな。
助けられないならイカロスはどうしてあのかたちなんだろう。
「…ゆきみち」
「んあ、」
ぱん。
平手で頬を叩かれた。地味に痛い。え、なんで。
「失礼だと思わない?」
「は、え」
「どうして助けられたことを喜ばないの?」
シェリアの黒味の強い茶の目がつりあがっていた。怒ってる。なんで。
「考えてること全部口に出てるわよ」
あ、さいで。
「その言い方だと、助けたことを後悔してるみたいだわ。ゆきみちが治してあげなかったらもっと大勢の人が死んでいたかもしれないのに、みんな一緒に死んでしまえばよかったって言ってるみたい」
「いやそこまで極端なことは」
「聞きなさい」
「ハイ」
首をすくめた。おおい助けろよ同行者三名。割と怖いんだけど。
「そういう考え方は、ちゃんと助かった人に失礼だわ。助けられたことを喜ぶのと亡くなった人を悼むのとは違うの、ゆきみちはそれがわかってない」
ううっお説教は内容に関わらず耳が痛い。勢いで跳ね返しちゃう気力もない。
シェリアがひとつ息をついた。
「私はね、感謝してるの」
また話飛んだね。
「あの後、こっそり捕虜の方々の方に行こうとしたら止められてしまったの。リチャード殿下の命だから、って。だからゆきみちが先に行って治療してくれたことに感謝してるの。少し経ってからもう一度行ったら通してもらえたけど、そのときに治療を始めていたら間に合わなかったかもしれない…だから私は、ゆきみちがそうしたことは間違ってないと思う」
シェリアは挑むみたいにきっと前を向いた。誰にだ。
…後ろを向きたがる俺に、だ。
ゆるく顔が笑みの形をしたのがわかった。
「…よかったと思う?」
「思うわ」
「俺、ちゃんと助けられた?」
「ええ。…だいたいゆきみち、ちょっとひどいんじゃない?私あなたが治癒術を使えるなんて知らなかったわ」
シェリアが膨れてみせた。あー言ってなかったかー、な。うん七年前にみんなの前で治癒術使った記憶ない。アスベルの傷は治した覚えあるけど、これ多分ソフィと三人でバロニア行ったときだわ。
そのアスベルはというと、シェリアに見えないところでそっと息を吐いていた。ご心配おかけしました。
「割とおおざっぱだけどね、つか正確にはイカロス」
「どっちにしろもう少し丁寧なやり方を覚えるべきだと思うわ」
とりあえずパスカルはとっととソフィから手を離すべきだな。邪魔しないように口塞いでくれたのはありがたいけど、そろそろソフィが本気で暴れだすぞ。
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