ちっぽけな手に
ラントから救護組織が来てるって聞いて、もしかしたらとは思ったんだ。
「シェリアー!」
「ゆきみち!よかった無事で…」
改めて見るとシェリアはやっぱりきれいになった。アスベル先に会ってたよな、感想をぜひ聞きたいところだ。
…ところでスカートの丈短くない?それで膝ついてほしくないんだけど。
「わーいやっぱ来てた!久しぶりー!ラントで会ったときはばたばたしてたしヒューがバカやってあんま話せなかったからさー」
「…否定はしないけど、もう少し言葉を選んだ方がいいと思うわ」
頭撫でようとすると逃げられた。なんで。
「…あんまり年頃の女の子にする仕草じゃないと思うんだけど」
「そ?つかシェリアって病気治ったん?」
走っただけで呼吸器になんかあることがわかるくらいだったはずなのに、こんなとこまで来て赤十字みたいなことしてる。
聞いてみたらシェリアは笑顔で頷いた。そっかー。いいことだ。
「言ってなかったかしら」
「聞いてなかった。ばたばたしてたし俺疲れてたし。あ、来た」
置いてきてたアスベルたちも来て、王子に挨拶に行くことになった。
「しかしどこで拾ってきたんだあのおかん属性」
「…拾ってくるものなのか?」
つかソフィが風呂入ってなかったのにびっくりしたよ俺。でも確かによく考えるとアスベルとパスカルがそんなこと気にするはずがなかった!…ちょっと後で謝っとこう。
「つーかデール公のお屋敷でお湯貸してもらえたけど」
「そうなのか?」
知らねぇし!こいつ本気で大丈夫か!?
俺は途中で中央塔から出た。
「…ゆきみち?どこへ行くんだ」
「ちょっとさっきのきょーかんの顔見に行くわー」
階段を降りきる前から歩みは早くなった。
(なんだこれ)
(なんだこのきもちわるい感じ)
違和感と焦燥感が頭の中でぐるぐる回っている。知ってるこの感じ。生田目をテレビに入れるかどうか、話すか怒鳴るかわかんない言い合いをしてたときにもずっとあった。
間違えると取り返しつかなくなるよ、って言われてるみたいな。
(でも今度の選択はなんだ?)
きっと今度は二択じゃない。そもそも選択肢が二つしかないなんてそうそうない。つか今回何に関することを選べばいいんだ?
わかんないわかんないわかんない。
ざむざむ進んでくと、いつの間にか捕虜の収容場所っぽいところに来ていた。
…血の匂い。
「ひどい…」
ろくろく手当てもされてないなこれ。つか狭いし。やだ視線痛い。つーか傷、ひど…むせるどころか吐くぞこれ。
これをほっとけってか、王子。
「無理だね!」
引き金を引いてイカロスを呼ぶ。指示なんて知るか、俺ウィンドルの人間じゃねぇし!
「狭くてごめんな、あとちょっと無理させるわ。…メディラマ!」
できるだけ広い範囲に治癒の光を降らせる。足りる、わけないか。
「助けられるだけ助けるぞ!イカロスもいっかい!」
見張り?寝てもらいました。リチャードに告げ口食らうと面倒だし。
「…なぜ、助ける」
「あー?ごめん俺今忙しい後にして。イカロス!」
なんか「敵の情けは受けん!」的な声もあったけど無視無視。ていうかむしろ「ざけんな微調整きかねんだよ治療受けたくない奴はどいてろ!」って怒鳴り返した。無理だけどね!狭いし!動けないし!嫌味!
「…疲れた…」
もー無理。膝ついたら頭を撫でられた。
「礼を言わせてもらう。おかげで助かった」
顔を上げると「教官」がいた。ほんとにかっけぇなこの人も。アスベルの周りは美形の巣窟か。
ふと誰かの泣き声が聞こえた。
「…間に合わないなら意味ないじゃんか」
俺が使えるのはほんとに傷を直すところまでで、リカームやパトラ系なんかはひとつも使えない。だから傷を治しても助けられない人は、いる。
「…割り切れない俺はガキか、ちくしょう」
「全くだ」
ぎん、と睨み上げたけど「教官」は明後日の方を向いていた。余所向くならこの手どけとけ。
「ガキはガキらしく、泣いてわめいて現状に文句を言ってみたらどうだ」
「死んじゃったら単なる肉の塊じゃんか。そうなってから後悔したって遅いだろ」
「わかっているなら次のことを考えろ」
「次があったら駄目だろ」
それはつまり誰かが傷つくということだ。
溜め息を吐く。
「…王子もな。戦いたくないならどっか引きこもればいいのに」
「セルディク王はリチャード殿下の死体を見るまでは刺客を送り続けるだろうよ」
「ほしいものはちゃんと持ってるんだからほっとけっつの」
「悪銭身につかず、と言うからな」
…この人絶対リチャードの叔父さん嫌いだ。つか王座を悪銭扱いしましたよ今。否定しないけど。
「わかってるならほしがるなよ…」
「そこは悲しい人の性、というやつだな。他人の優位に立つには力を得るのが一番早い。手の届くところにあると思えば尚更だ」
ばかみたい、と呟いたら、そうだな、とまた頭を撫でられた。
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