犠牲
遺跡からあっさり侵入成功。
「なんていうかラッキーだと思えばいいのか警備兵のやる気に不安を覚えればいいのか微妙なとこだよな」
「幸運だと思っておこう。…さぁ、まずは北橋だ」
「うーす。あ、ソフィちょいこっち」
手招きして耳打ち。ソフィはこくんと頷いて一人で先にドアの向こうに消えた。
「…ソフィに何を?」
「俺と王子が暴れたら目立つからできるだけ兵士は気絶させといてって」
イカロスはでかいし王子は人目引くし。髪の色金だから。
「パスカルもあんま派手な術使うなよー。とりあえず火炎系は封印」
「ええー」
「北橋上げるまで我慢。その後は嫌でも目立つからぶちかましていいし」
「いや、あんまり派手なのはちょっと…」
アスベルのコメントはとりあえず流して先に進んだ。アスベルの帯刀術もある意味格闘みたいだから、相手にはさくさく気絶してもらって。
「…ありがとう」
「何がよ」
王子が低い声で急に言った。…パスカルが楽しそうに杖で兵士をぼこぼこにしている。
「兵を殺さないように、だろう?」
ソフィへの耳打ちも、僕やパスカルさんに下がるように言ったのも。
「…俺が、人殺し嫌なだけだよ」
自分の手を汚さないこと。王子が本気で王の座を取り返そうとしたら、それに最後まで付き合うつもりの俺だってきれいごと言ってられない。けど。
「顔向けできないの、やだから。俺が頑張りたいのは誰かを生かすことだから」
そのための力。そして誰かを傷つけていることを意識したくなくて、俺のペルソナには近接攻撃のスキルはない。
「臆病者の理屈だよ」
「それでも結果的に、死んでしまう人間は減るだろう。犠牲は少ない方がいい」
ゼロにならない犠牲のために王子を天秤にかけようと思えない自分の無能さに涙が出た。
俺がもっと頭よかったら、誰も犠牲にならない方法をとれたかもしれないのに。
「…王子」
「なんだい?」
王子が優しく笑う。
「アスベル、ソフィ、パスカルも、みんな守りたい。絶対死なせない」
そのために誰かを犠牲にするのは間違ってる。でも俺は結局それしか知らない。
唇を噛んだ。
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