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イカロスの話
今更だけど、と王子が言った。

「ゆきみちのその…イカロスは、いったいどういうものなんだい?」

今さっき戦闘が終わったばかりで、イカロスはまだ俺の斜め後方に浮かんでた。
一つ瞬いてから言う。

「…本っ気で今更だなそれ」
「いや、気になってはいたんだが、なかなか聞く機会もなくて」
「そういえば、改めて聞いたことはないな」

ちん、と剣を鞘に納めてアスベルも言った。ソフィもパスカルもこっちを見ている。
…説明しなきゃいけない流れ?いや話したくないんじゃなくて、説明下手だしさぁ俺。

「俺の力、俺を守る鎧」
「は?」
「俺もよく知らない。どーゆー理屈で実体化してるとか」

こん、と金属的なイカロスの腕を叩く。冷たくはない。温度はないけど。
ぐい、とパスカルが顔を近付けてきた。

「うぉっ」
「触れるの!?」

うっはいらんスイッチ入れた。超目ぇきらきらしてんぜ。

「…触りたきゃどうぞ?」
「いいの!?やたー!」

パスカルは遠慮なくイカロスに触り出した。…なんていうか…ごめんイカロス。これ止めるのは無理。

「…で、結局どうなんだ?」
「どうっつってもなー。俺もよくは知らない。詳しそうな人なら心当たりあるけど連れて来るわけにいかねぇし」

なにせ死んでる。俺テレビの中も行ったし、S.E.E.S.時代とちょっと変わっててもおかしくない。

「…少なくとも、こいつは俺の中から生まれた俺の一部、もしかしたら俺そのものだ」
「よくわからないな…だいたいどうして自分を撃つ必要があるんだ?」
「ないよ?」
「はぁ?」

だってテレビの中でカード召喚も使えたしね俺。

「や、だってかっこいいじゃん。その方がビジュアル的に」
「そんな理由で…」
「初めて見たときは正気を疑ったけどね」
「威嚇だもん。相手ちょっとびびるだろ」

いい加減イカロスを戻そうと思ってパスカルをどかしたら、入れ代わりでソフィがイカロスの前まで来た。

「…こんにちは。あなたもゆきみちなの?」

…イカロス超困ってる。いや顔見えないんだけどそんな感じ。

「…ある意味ソフィが正解。そいつは俺を写してそのかたちをとったわけだし」
「…似てないよ?」
「見かけはな。こいつは俺の願いと闇を写し込んでかたちをつくってるから」

イカロスがソフィの頭を撫でる。他意はないんだろうけど、イカロスでかいから手を握るだけでソフィの頭潰すこともできるわけで、見かけ的にはちょっと怖い。
それを見てアスベルが驚いた。

「…自我があるのか!?」
「自我っつーか。俺の見たくない自分も取り込んでるから」

ある程度の自律行動はできるさね。テレビの中で影になったときは会話もできた。

「こいつが抱えてるのは俺の望みと心の裏側。
…人間恨んだり憎んだり、するだろ。悲しいのとか思い出したくないし馬鹿な自分なんて見たくないだろ。
そういう押し込めて押し殺したキライな自分の表れでもあるわけ。こいつは」

こうなりたい自分、のイメージにそうなれない自分のイメージを乗せた。

「…イカロスは、どういう思いを載せたものなんだ?」
「聞きにくいことさらっと言っちゃうよねアスって」
「あ、ごめん…無理に聞こうとは思わない」
「別にいいし。そーだな…ヒーローになりたいけどなれない自分、みたいな?」

自分が特別だっていう絶対の自信を持つくせに臆病で卑屈で卑怯で、文句は言っても動こうとはしなかった。
本当は俺はイカロスにはなれない。
羽を繋ぐロウが溶ける危険を侵してまで太陽に近付く度胸なんてなかった。

「つかパスカル、なんかわかった?」

話振ってみると、ぜんぜん、とパスカルは首を振った。

「ものすごく高密度の原素でできてるらしい、ってことくらいかなー。ちゃんと検査すれば何かわかるかもしれないけど」
「ならいらね。イカロスは俺だってことがわかってれば十分。ソフィ、そろそろイカロス戻したいんだけど」

ソフィが頷くのを待ってイカロスは姿を消した。
アスベルが頭を掻く。

「結局、聞いてもよくわからなかったな」
「わり、俺自身がわかってないことの方が多いし、説明下手なんだよ俺」
「…いや、ゆきみちが一生懸命になってくれたのはわかったからね。僕にはそれで充分だよ」
「…お前本気でタラシね」

こいつらが話してるとたらしこみ合ってるようにしか見えないのは気のせいか?密度濃すぎんだよお前ら。

「ゆきみちが何かを伝えようっていう熱意は伝わってきた。実はあまり、自分の話はしないだろう?」
「だっけ?」
「いつも君は他人の話を聞いている気がするよ。…なんて、そう長く一緒にいたわけではない僕が言ってはいけないかな」

王子がゆるりと笑う。相変わらず優雅だね。

「俺は別にいいけど。どっちかってーと文句言いだろ俺」
「そうかもね。でも僕らは、君のことを知らない」

どくん、と心臓が鳴った。…しまった、俺結局こいつらに、俺がどこから来た誰なのかって話してない。

「だから、少しでも君を知ることができて嬉しいんだ。…いつかでいい、もっと君のことを聞かせてほしいな」

泣きたい。
やっさしー王子。こんなときだけ黙るなパスカル。アスベルとソフィも。

「…ん。話さなきゃとかは思ってる、けど」

ヒューバートがきれいに出鼻くじいてくれてアスベルにも話せてないし。なんか気合い入れたのに抜けた感じ。

「とりあえずヒューは殴るとして」
「ええ!?」
「話す。絶対。覚悟決める。…決まるまで待ってて?」

そうしてみんなして笑って頷くから、俺はまた泣きたくなった。


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