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ただいま
目を開けるとやっぱり真っ白だった。
と思ったのは、俯せで寝てたかららしい。枕から頭を上げて、ぱしぱしと瞬いた。
喉が乾いて使いものにならなくなっている。水差しと紙コップを見つけて、どうにか水を飲んだ。やっべ腕萎えてやがる、何日寝てたんだ俺。
病院、か。好きくないんだよな、注射も点滴も嫌いだし。溜め息を吐くと、しゃっと音立ててベッドの周りのカーテンが引かれた。
あのとき持ってた武器と同じ鋼色が、ぱちぱちと瞬く。

「………とりあえず、歯を食いしばれ」
「待て待て待てここ病院! 俺病人!」

リーダー怖い超怖い! と騒いでる間に他のメンバーが揃って、クマと千枝が泣き出して殴られずに済んだ。目覚めて早々魔王陛下とご対面とかどんな不幸?
ぐちゃぐちゃになりつつ聞いたところ、俺がゲームを起動してから丸五日経っていて、登校日に俺がいないことに気付いた花村たちが下宿まで来て、そこでおかしいなって気付いたらしい。玄関に靴があるのに借り主はいないし、テレビもゲームも電源が入りっぱなしだし、変じゃない? って言い合ってたとこでクマが駆け込んできたんだそうだ。
曰く、テレビの中に誰かがいる、と。
大慌てで一年組(あ、もう二年なのか)三人を呼んで、テレビの中に入って、転がっている俺を見つけたんだそうだ。

「それにしても、どうして三日も経ってからクマくんが気付いたんでしょう」

一通り落ち着いてから直斗が言う。探偵モードだまじかっっけえ。

「あーうん……たぶんイザナミがなんかしたんだと思う」
「イザナミが?」

俺が倒れたことを聞いて即行来てくれたらしいリーダーが眉を寄せた。なんだかんだで愛されてるねー俺。わーい。

「なんで?あれで終わりなんじゃないの?」
「あー終わり終わり、なんてゆーかまー……俺のワガママ? みたいな?」

赤い目に濡れたハンカチを当てながら千枝が言った。うーんちょっと時間置きたいなー……イカロスと今回の考察まとめときたい。

「……で、そのワガママに付き合わされてここまで来た俺への詫びは?」

笑顔が怖いっすリーダー。

「スンマセンまじごめんなさい。ついでに一個頼まれてください」
「今回の滞在費と交通費お前持ちだから」
「ううっ」

どうせ堂島さんちに泊まるくせにっ、と思いながらも逆らえるはずもなく。渋々頷いて、発言の許可を得た。

「おかえりって、言って?」

予想外だったらしく、リーダーはかすかに目を丸くした。

「おかえりークマ!」

一番に反応したのはクマで、ぴょんと飛びつかれて支えるのが大変だった。

「おかえり」
「おかえりなさい」
「おかえりー」
「おかえり、っス」
「おかえりなさい」
「おかえり」

口々に言われて俺も目を丸くする。リーダーだけに言ったつもりだったのに。いやうれしいけど。

「……おかえり」

最後にリーダーが薄く笑んで、にっこり笑って答えた。

「ゆきみちたくとくん、ただいま帰ったっス!」






あの世界は俺の夢だったけど、単なる想像じゃないって思っていいだろうか。
一緒に泣いて笑ってわめいて馬鹿騒ぎしたことは本物だって思っていいだろうか。
俺が何もしなくてもちゃんと収まったはずの世界に、俺がいたことに意味があると思っていいだろうか。
お前らがちゃんと、どこかの世界で、まっすぐに前を見て歩いていると思っていいだろうか。
俺にその手伝いができたと、うぬぼれてもいいだろうか。
……いいよな、別に。
間違ってても、いい。正してくれる誰かは、ここにちゃんといる。
俺もいいかげんにちゃんと前を見るから、みんながどうか、この先の知れないいつかの未来で、まっすぐ前を見て笑っていますように。

進むしかない、どんなに霧深い未来へでも、撃ち出された弾丸のごとく。
───ダンガン/ユクエシレズ。


20101029
ゆいな


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あきゅろす。
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