[携帯モード] [URL送信]
???
───もういいのかい?

ゆらゆら揺れる真っ白い世界で、柔らかい声がする。

「もう俺にできることなんてないよ。世界は平和になって英雄は望みを叶えた。……いい夢だったよ」

重力なんて存在しない空間で、ふわふわ漂いながら答える。いい夢だった、ほんとに。夢だって気付くのが心底惜しくなるくらい。

───いつから気付いてた?

「いつかなあ……とりあえず、携帯のことは変だなって思ったし、ヒューが途中から俺のこと聞くのやめてあれって思ったし、俺暑いのダメなのに砂漠平気だったよなあとか、いろいろ?」

思い返せばおかしいことばかりだ。明らかに交わらない異分子の俺が、当たり前の顔をして存在できる世界。

「イカロスに今までの話全部再生してもらってさ、明らかおかしいとこに気付いたんだよな。
───俺は最初、ラントに路銀を落とした旅人として来た。アスたちには記憶喪失でごまかしたけど、二人以外には言ってないし口止めもした。以来その話が二人から出ないことも一つ、それからさ。

王子についてきた格闘家の騎士が、なんで俺が記憶喪失って言ったこと知ってんのかってこと」

あの口振りはみんなが知っててそう言った、みたいな感じだった。でも俺は、あの街で「お金のない旅人さん」の認識だった。

「都合のいい世界だ。俺にとって。世界はそんなに優しくないんだよ、イザナミ」

───だから、キミは逃げ出したかったんだろう? 単調な繰り返しの世界に飽いて

口調は優しかった。言われたことはひとつも優しくなかった。額に手を当てて、あーあ、と言う。

「成長しないよね俺も。足立さんに反論するまでまだ時間かかるなあ」

───私は構わないよ、このままここで、終わらない夢を見ていても。キミが望むならね

「おかーさんやさしーありがとー。でもいい加減、戻んなきゃ」

霧に隠れて見えない創世記の母親に、額の手をどけてにこりと笑う。

「俺は戻れることを最後まで疑わなかった。ここへ帰れることを疑わなかった。この世界は俺が属するところ、いつか帰ってくる場所だ。俺はこの世界を忘れないし嫌えない。
俺はやっぱりここが好きだよイザナミ。めんどくさくてつまんなくて唾吐きたくなっても、俺が帰ってくるのはここだ」

ことり、と首を傾げる気配がした。

───かえるかい?

「うん、かえる」

そうか、と言って、イザナミは笑ったらしい。

───おかえり、私たちのいとしい子


[←][→]

2/3ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!