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それから
そうして世界はいつもの通りを思い出して、その「いつも」は少しずつ変化していく。
パスカルはようやくフェンデルの大輝石の利用法を開発した。温水暖房だそうだ。自分が風呂にいつでも入れるようにだとかなんとか……でもなんだかんだで、あいつやっぱり風呂さぼるんじゃないだろうか。
教官はフェンデルに戻り、体制改革をやってるらしい。きっとすごく時間がかかるんだろうけど、もう教官は諦めない。それはすごくエネルギーのいることだ。エネルギーを使うことは熱を発することだ。教官の熱は、今にフェンデル中に伝染するだろう。
ヒューバートはストラタに戻った。もうほんとさみしい。もちろん音信不通なんてことはなく、時々事務仕事みたいな手紙が来る。書き慣れてないのが丸分かりな書き方を盛大にからかってやると、しばらく一日に三通くらい手紙が来た。ふっ、仕返しのつもりか。俺ヒューバートだいすきだから嬉しいだけだぜ。
王子は今、世界中に散った魔物の掃討を指揮している。迷惑をかけ続けたことに対するせめてものお詫びらしい。ずっとずっと、王子は十字架を背負う。俺らが頼んでも手伝わせてくれない荷物を、一緒に抱えてくれる誰かが見つかるように願う。ちなみにこないだ手紙が来て、出先でシェリアに会ったそうだ。
そうだよシェリアだよ! あいつラント飛び出して私設赤十字みたいなことやってんだぜ! あれ赤十字って公営だよな、いや違くて。出発前夜アスベルとイイ感じだったのにどーしたんだよー!
で、そのへたれアスベルは、ちゃんと手続きしてラントの領主として収まった。事務仕事してちょっと剣の稽古して、ソフィと一緒に花の世話をしたりしている。
ソフィはラントに残ることになった。本人の希望とかアスベルのお袋さんがソフィをけっこう気に入ってるとか、そういうもろもろに理由と、まあ考えたくないけどラムダが暴走したときのストッパーとして。
本人としては、どっちかってゆーと、ラムダが起きたときに「おかえりなさい」を言うためらしい。
で、俺はっていうと。






「わーこれ着るの超久々。ていうか新品みたい……いい仕事すんなーメイドさんたち」

ずるずるとラント領主館のお客さんをやっていた俺は、もらった部屋で制服に袖を通していた。
二年着倒してくたびれていたはずの制服は、繕われたりアイロン当てられたりしてかなりぴかぴかになっている。プロってすごい。

「えーと、召喚器よーし携帯よーし制服よーし、あとはー」

グレルサイドで買った服は、できるだけ丁寧に畳んでベットの上へ。こうして見ると俺の荷物って案外少ない。

「あーあ……風花見たかったなあ」

見ると名残惜しくなるからいいけどね。
呟いて、俺は部屋の中央に立った。

「もう、いいよ。イザナミ」

視界が白く染まる一瞬、ほのかな紫色が空へ昇った気がした。






「……あれ?」

ころりと。
両の頬を転がった滴に、アスベルは首を傾げた。

「……アスベル、わたし、またどこかおかしいのかな」

風花を見上げていたソフィが、手のひらを胸の前で握って俯いた。

「なんだか、苦しい。このあたりがぎゅってするの」
「……俺もだ」

まるで、とても大切な何かが、消えてしまったかのような。
それが何か思い出せず、二人は風花の昇った空を眺めていた。


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あきゅろす。
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