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おしまいになる。
「ていうか俺結局ラムダ殴れてないしな! 何コレもうアスの馬鹿!」
「いや、あのときはああするしか」
「知ってるよ八つ当たりだよ畜生!」
「ええ…」

結局俺が泣き止む前に出発になった。みんなひどい。興奮が収まらなくてなかなか泣き止めない俺はみんなに絡みまくっていた。大声出さないと止まらないよ破裂するよ俺は鮫だ! どうせマグロ止まりだろうけどな!

「わーん王子のばかーなんであそこまで大事になる前にラントまで避難しに来ないのさ! あの時点で行ってもアスもヒューもいなかったけどな!」
「はは、まあ確かに……逃げてしまうのも、一つの手だったかも知れないな」

動けない王子は教官の背中で笑った。ご苦労様です教官。後でイカロスと交代させます。え、俺? 人ひとり抱えられるほど力ないよ!

「でも、僕にもプライドはあったから。逃げるのは、叔父や宮廷のいろいろなものに負けるような気がしてね。それに……みんなに、笑われてしまう気がして」

王子が小さく肩を竦めた。顔色はよくないけどずっと穏やかな表情にまた泣きそうになる。元々泣いてるけど。

「お前はいったい何をやってるんだ、って。みんなに軽蔑されたら、僕は本気で生きていられないと思った」
「ほんと依存っぷりぱねえよね王子。大笑いした後でちゃんと話聞いてやるっつの」
「笑うのは決定なのか……?」
「もちろんだとも」

ぐっと親指を立てるとアスベルが半眼でこっちを見た。

「……俺は笑わないぞ」
「ぼくもです」
「ゆきみち、あなたちょっと考え方に問題あるわよ」

ラント三兄弟に全否定されました。暗い顔するよりいいと思うんだけど。

「っていうか、ずいぶん静かだね」

パスカルがぐるりと周りを見回して言った。ぼろぼろといたラムダの産んだ魔物が、一匹残らず姿を消していた。

「どこへ消えたんでしょうか」
「ラムダが眠ったから、力を失って消えたとかかなぁ?」
「それだと千年間ずっとフォドラに魔物がいた説明がつかないわ。フォドラにいたのは、全部ラムダが産んだ魔物だったんでしょう?」

俺的にはパスカルの意見がらくちんそうでいいんだけど、そんなに甘くはないんだろうな。つーかあいつら生殖その他の生態系はどうなってるんだ?

「……おそらく、今まで従っていたラムダからの指令が途絶えて混乱しているんだろう。統率者を失った集団は得てして脆いものだ」

教官の意見もありそうな話だ。指令受け取れなくて同じところぐるぐる回ってるラジコンカーみたいなもんかな。……あれって指示もらわないと動かないか。うーん比喩って難しい。

「たぶん、教官の言うとおり。魔物は消えたわけじゃない。少し大人しくなるかもしれないけど、人間を襲うのはやめないと思う」

ソフィの言葉が決め手になって、「魔物は今ちょっとパニクってるけどじきに行動再開する説」が採用になった。いろいろ頑張るつもりらしい王子が、教官とヒューバート相手に早速なにか話し込んでいる。いやお前はまず休め、体調整えろ。
ぱん、とシェリアが両手を叩いた。

「はい、そこまで。陛下にはまずしっかりと休養を取っていただきます」
「シェリアさん、だけど僕は」
「駄目です。ここで本当にあなたが倒れてしまったら、何万というウィンドル国民が路頭に迷うことをお忘れなく」

シェリアはついでに教官とヒューバートも睨んでいった。シェリア怖いシェリア強い。
とにかく、とアスベルがいささかひきつった顔でまとめ直した。

「まずはここを出てからだ。───時間はたっぷりあるんだから」

これだけはしゃげるんだから、みんな少しばかり気が緩んでいるんだろう。世界はきっと今よりほんの少しばかし平和になる。
立ち止まって、みんなが笑いながら歩いていくのを見ながら、俺は微笑んだ。

ああ、夢が終わる。


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