待機中
二人の声が響く。アスベルの心の中は、どうなっているのか。よくある上下左右の区別のないまだらの空間? それともテレビの中みたく、地面も空もあるけど霧に隠れて見えない、とかそんな感じだろうか。
あったなあ、「さくら」にこんなの。真っ暗な中に自分の姿だけが見える理由、それは自ら光を放つものだから。こいつらは気付くだろうか、無意識の海の中、自分を保てるのは自分が自分だって強く思っているからだって。
<……他者の不幸な過去は、さぞ楽しかったことだろうな
……満足したか?>
楽しいわけあるか。やたらと身につまされたわ。つーかお前の過去話のせーでトラウマざっくざく抉られた俺はどーすればいいの。
後でラムダを殴る回数を増やして俺は唇を尖らせる。ていうか満足ってなに?
<……そんなわけないだろう
満足なんて……できるわけがない
お前の過去は、確かに悲しみに彩られていた
けれどそれは、理由になんてならないはずだ>
……あーあーあーラムダの暴走の理由についてのあーだこーだか。理解。遅ぇよ俺。
<だから、>
<自分は乗り越えられた
だからお前も乗り越えられるはず
……そう言いたいのか?>
アスベルを遮ってラムダが言った。声から皮肉げな調子が抜けない。非常に腹の立つ口調だ。素ではないと思うけど。わざとだ、多分。いちいち乗せられる俺がバカなのはわかってるんだけど。
<人間は強欲で残忍な生き物だな
その上……傲慢だ>
───今更じゃん、何回言うのそれ
───俺繰り言キライなんだけど
「頼むから黙っててイカロス」
みんな息を殺す勢いで二人のセリフを聞いている。いまいちシリアスになりきれない俺らにはやはり緊張感という概念が備わっていないんだろうか。
<理解するふりをして他を見下しているお前も同じだ
お前の考えなど読めている、どんな御託を並べようと無駄だ>
あああああダメだこいつムカつく。侮辱されて本人より周りがキレるのなんてよくある話だ。俺はぎっと唇を噛んだ。今は、アスベルのことだ。口出していいのはアスベルがやることやってからだ。
<読めている……か
だったらその読みはまだまだ甘いな>
……アス?
首を傾げつつ、俺は自分の口を片手で塞いでおいた。いや俺割と下手打つ人だからね、予防大事超大事。
<俺がいつ一人で乗り切れると言った?
誰しも、一人では乗り切れないことがある
けど、手を取り合い協力し合えば、なんだってやれる……俺はそう思っている>
<協力……その言葉でだまされるのは、愚かな人間という存在だけだ>
協力って言葉を持ってるのも人間だけだけどな。イカロスにさんざん反論されかかったけど後に回す。この話今しか聞けないのに聞き逃したら一生後悔する。
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