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帰りを、知らせを、待っている
「アスベル……」

苦しそうな声がした。

「リチャード陛下! まだ動いては駄目です!」
「ああもうキツいなら寝てろし王子、イカロス手伝って」
『あいよ』

すっかり忘れて放置されてた王子が起きたらしい。手持ち無沙汰なのでイカロスと一緒に両脇から王子を支えた。
ありがとう、と微笑む瞳は優しいオーク色だ。あー、王子だ。やったあ。
地味に感動してる俺を横目に、王子は倒れたままのアスベルを見た。

「アスベルは……ラムダに寄生されてしまったのか……!?」

無理矢理歩こうとするのでいっぺん後頭部あたりをはたいて速度を落とさせる。幼少期ラント組は無茶しぃが多くて困るねまったく。

「寄生っつか、自分からケンカ売りに行ったとかのが正しいんじゃねぇのあの場合」
「すごいな……アスベルらしいか」

くす、と笑った王子がアスベルの側に膝をついた。できれば横になってほしい、王子って最後にいつ寝たんですか? みたいな状況のはずだし。

「なんかね、さっきから声がするの。一人はアスベルなんだけど、もう一人は多分……」

パスカルが涙声で言った。多分もなにもないけどな、この状況で。

「ラムダは……僕の、自らの境遇を呪う気持ちと強く同調していた。それを僕は……わかりあえていると錯覚してしまった……」

アスベルは距離的には近くに来てたんだし、会いに行きゃよかったのにな。いや騎士学校に来たこと知らないか。つーかその前にラムダと会ってんだから意味ねーか……うーん難しい。何これ。

「だから僕たちは、本当の意味で助け合うことはできなかったんだと思う。……でも、アスベルなら……」

みんながアスベルを見る。まだ戦っている。つまり負けを認めるには早い。

「……ほんと俺らってば、どんだけアスに過剰な期待寄せてんだろーな」

わざと明るい声を出した。一番に乗ったのは王子だけど、アスベルから視線が外れないのは流石だと思う。

「過剰か。そうかもしれないな……アスベルには、随分負担をかけていると思う」
「親友が筆頭とか終わってるよな! 知ってるか王子自殺幇助って犯罪なんだぞ、確か」
「そこは曖昧でいいんですか」

くいっと眼鏡を押し上げたヒューバートが言う。目が赤いのは後で存分にからかってやるとしてー。

「てめえなにアスに親友殺しとかさせようとしてんのバカじゃねえの。ふざけんなし……っと」

〈あの時俺たちが見たのは、やはりお前の心だったのか〉

アスベルの声が響く。一人声が聞こえない王子は、少し寂しそうな顔をした。

「あの時はそれが一番いいと思った。僕は相変わらず、アスベルに頼ってばかりだ」
「お前それ早く直した方がいいよ? でないと癖になるから」
「うん、わかってる。……それでも頼りたくなるのは、アスベルなら大丈夫って思えるからなんだろうね」

大丈夫だからって任せっきりはどうかと思うし、アスベルは基本無理したがりだから気をつけないとだけどな。
と言うと、全員の同意をもらえた。ありがたいけどみんなラムダとアスベルの話も聞いてるよな。聖徳太子? あれはフィクションか。

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