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いつだって、俺は待ち人
「アス……っ!」

どっ、と倒れたアスベルにみんなが駆け寄る。半ば以上無駄だってわかってても呼ぶのをやめられない。
アスベルに押しつけた、結局。この中で一番ラムダに呑まれやすいのはたぶん俺だけど、だからこそアスベルだけに任せちゃいけなかった。

「やだ、もう、なんで、俺……っ」
「まだ死んだわけじゃないだろう!」

ひっぱたかれたような怒鳴り声にぱって顔を上げると、仁王立ちした教官が一つも余裕のない瞳で俺を睨んでいた。怖い。けど頭冷えた。

「あ、はい……スンマセン」

頬を転がっていった汗を拭う。汗です。心の。
ダメだなもう、いちいち手間かけさせて。いいかげん成長しろし。

〈……器を提供してくれた礼だ〉

声が響いた。相変わらず鼓膜を通しているのか怪しい声だ。

〈我が意識の底で、この世界が我と一つになるのを見届けよ
 この世界が我と融合し、この世界そのものになることで、我はようやく完全になれる〉
〈完全だと……?〉
〈そうだ
 もう決して、何者にも脅かされない
 追われ続けた我は、それによりようやく安息を得るのだ
 もう……誰にも邪魔はさせぬ〉

「なんだ……?」
「今の、声は……?」

アスベルと、ラムダ? なんで精神世界の話が俺らにも聞こえるのよ。原素飽和とかでここ無意識の海とつながったとか?

───もうちょい身近な原因は思いつかねーのか
───ソフィだ、ソフィ

「あ、指輪か」

って、精神共有まで機能あったっけ。まあいいや聞こえるに越したこたない。
さて、と改めてアスベルを見下ろす。目を閉じたアスベルは少し眉を寄せているように見えた。苦しいかな。苦しいよな。自分じゃないものを腹の中に入れてるんだから。
そっと、白いホルダーに触れる。あちこち黒ずんだホルダーは、それでも壊れずに召喚器を収めていた。
メメントモリ。死を思え。引き金を引いて、ペルソナを呼ぶもの。───応用すれば、アスベルの心へ入れる?
随分危険な賭だ。うまくいくかどうか。下手したら俺とアスベルとラムダで心中だ。それでも何もしないよりマシか?
俺は召喚器に手を伸ばす。
手を伸ばして、そして───俺は結局、召喚器を抜かずに終わった。
アスベルを信じる。俺がなにをしなくても、あいつはここへ帰ってくると信じてる。

───ゲームの主人公に不可能はないから?

「そうじゃない、いや、それもあるかも」

でもこの世界は、俺というイレギュラーを抱えた世界は、もしかしたらゲームと違う筋書きを迎えているかもしれない。
その世界の英雄たるアスベルの最後の無茶の結末も、もしかしたら変わっているかも。───いい方に、悪い方に、それは俺の預かり知らぬところではあるけど。

「アスは一番いい結末を持って帰ってくる。俺はそう信じる。俺が最初に気に入ったキャラクタープロフィールのアスベル・ラントごと、俺はアスを信じるよ」

そうだろアス。目を閉じたままのアスベルに言って、俺は膝の上で拳をぎゅっと握って、待った。
アスベルがラムダすらひっくるめて世界を救ってみせるのを、待った。

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