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崩れない予定調和
がろん、と音立てて後光にも見える円形の外郭が落ちる。
落ちた、と見たときには既に光を帯びて輪郭が曖昧だった。消えていく、還っていく、世界に。
若干高度を下げたラムダが吠える。

 図に乗るな!

「どっちが!」

牽制にもならないけどいつもの癖で二三発撃って、それから自分のこめかみを撃ち抜く。ざぁっとラムダの体を炎が舐めて、ラムダがまた吠えた。
鋼のきらめきが舞う光子が舞う。剣と魔法の世界にふさわしい様子に俺は笑った。
倒れろ、と。さっきうすら寒いような心地だったことも忘れたみたいに。(忘れてなんかいないんだけど)
見るがいい。ここに来たときに考えがあったわけじゃない。こいつらは何の策もなく、お前に勝ってみせるよ。

───ラムダの言うとおりの業をお前は抱えている

「そうだ俺は他人を傷つけたいばっかりの大馬鹿だよ。ラムダがいなかったらなんて何度だって考えた。……自分の努力不足棚に上げて? 確かにそうかもね」

守りきれなかったから、支えきれなかったから、王子の中のラムダが目覚めた。その可能性を誰が否定できる。
山ほどの分岐を越えた先がここなら、きっとラムダが眠ったままの世界もあっただろう。

───だから消すの?
───自分の望み通りの世界にならないから?
───邪魔っけにされたいらない命一つで済むなら安い?

「安くない。……ラムダはいろんなものに影響を与えた」

命の重さが皆同じ、なんて理想論なことは知ってる。俺は知らない人より知ってる人の命が重く感じるのは仕方ないと思う。
命はつまり、その人がどれだけの人に影響したかで重さが決まると思う。たくさんの人がその人を重いと思うから重さが増すんだと思う。
そういう意味ではラムダの命は間違いなく重い。

「諦めない。諦める必要がどこにある。ラムダが幸せを願えるくらいになるまでは、あいつに死んでもらっちゃ困るんだ」

コーネルさんがラムダの幸せを願わないはずないんだから。
調子いいな、と囁くイカロスの声を聞きながら、俺はアスベルの剣を受けてどんどん輪郭をなくしていく天使の形の鎧を見ていた。






ぐるぐる。
ラムダの記憶の通りの黒い渦が、さっきより大きさを控えめにして浮いていた。

「……駄目。消えない」

ソフィの声が響く。───それはつまりプロトス1が役割を全うするということ。

「っ駄目だソフィ、行くな!」

悲鳴に似た声を上げて、それでも直接ソフィを止める奴が出ないのは、そうするしか方法がないこととソフィが決めたことを覆すだけの言葉を持たない、全員がそれを理解していた。
嘘だ、そんな、もう手がないなんて。

(考えろ考えろ考えろ!)

焦って思考が空回る。あまりに何も浮かばないもんだからどっかのマンガの主人公のセリフにこんなのがあったなぁとかどうでもいいことを思った。違うそうじゃない、何ができる、俺に。
両手の指を組んで額の当てて、頭抱えそうな格好の俺の横を誰かが通り過ぎた。

(え、)
「……アス?」

す、と腕がソフィを遮る。遮った。首が横に振られた。
ラムダと向き合ったアスベルを見てシェリアが悲鳴を上げる。それを聞きながら、俺は飽きずに自己嫌悪に浸っていた。

おれは、また、だいじなときに、なにもできない。


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