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振り下ろさない剣
「遅いんだ……何もかも、遅かったんだよ……僕はもう、ラムダの気持ちと……自分の気持ち……どっちが自分の気持ちか……分からなくなってきているんだ……」

なにその素晴らしい同化現象。

「このままでは……君たちの命を、……奪うことになってしまう。だから……今のうちに、止めを刺すんだ……早く!」
「リチャード!あきらめるな!」

つったってどうやって引き剥がすよ。あーくそテレビん中連れてければなーどうにでもなるっつかするんだけどなー。
ぐ、と奥歯を噛んだとこで視界を黒い線が掠めてった。

 そうはさせない……

イカロスの声みたいな、鼓膜をちゃんと通してるか疑わしい声だった。

「この声……もしや、ラムダか?」
「やっと単体で口ききやがったかこの野郎! いい加減王子返せ!」

王子が跳ね起きて頭を抱えた。赤黒い、筆で空間に何本も引いたみたいな線が、数を増やしながら王子を取り巻く。

「アスベル、僕がラムダの意識を抑える! 早く止めを……」

落ち着いていた力が、空間に何本も線を引く。白っぽい星の核の光を背景に、それは不必要に禍々しく見えた。
アスベルはためらっている。当たり前だ、こいつに友達殺せとかハードル高すぎるし。王子もそれはわかってるはずで、つまりこれは王子の最後のワガママ、のつもりなんだろう。いらねえそのワガママ。

「アスベル……早く……!
ぐあああああ!」

獣じみた叫びと共に、王子の体が浮かぶ。ぐるぐると渦を巻く線が、密に王子を取り巻き始めた。
それはやがて、リチャード、と立ち上がったアスベルの背よりも高いところへ王子を連れていく。

「て、いうか話聞けよ!」

俺の話シカトされ続けてどんぐらいたつっけ。俺最初っから王子返せ以外のことはほとんど言ってないはずなんだけどなー。なんで聞いてくれないのかなーキレるぞちくしょう。

 我と共に……消えるというのか……?
 生きる権利を、自ら放棄するというのか……?

あ、やばいかもこれ。
きっと今でも心の中で鳴ってるはずの、コーネルさんのセリフを思い出す。

 ありえん……我々を苦しめた存在のために消えるなど、ありえん!

十把一絡げやめろっつのに。今の王子とアスベルの会話聞いてなかったわけ? 一括りは王子も怒ると思うぞー。

 消えるのならば……一人で消えよ

王子の体が跳ねた。
力の密度がさらに増す。回転速度も上がったらしく擦れた空気がばちばちと音を立てた。
全員動かない。動けない。あれに触れればただじゃすまないって、本能が言ってるから。

 生きる意志のない者に用は……ない!

ばちばちばち、強くなる摩擦音に、喉をだめにしそうな王子の叫びが重なった。

「リチャード!」

そして、それから、やっぱりお前は行くんだよな。
駆けだして、宙に浮かんだ王子に飛びついたアスベルを見て、俺はちょっと泣きそうになった。

「アスベル、危ない!」
「アスベル!」

ソフィとシェリアが叫ぶ。

───アスベルが王子を抱えて落ちた後、赤黒い力の渦が残った。


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