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手遅れなんて認めない
昔手を差し伸べてもらった。何よりも大事な俺の原点。
ついでにその週の総合学習でペイ・フォワードを見て大泣きした俺は、安っぽいヒーローへの憧憬とか虚栄心なんかを爆発させて同じことをしようと頑張った。挫折したけど。
それが与えられなかった人のなんと多いこと! ……なんて、俺が言っちゃいけないしそういう話ではないんだけど、でもこのからっぽの手で誰かが救えるとしたら。

「いくらでも使っていいと思うんだ。……生意気だの世間知らずだの言われても、本心」

どっ、と膝をついた王子を遠目に、俺は呟いた。……はず。後でまとめ直してもっかい言おう。このまんま言うのは俺痛すぎる。
崩れ落ちた王子の側にみんなで駆け寄る。えーとラムダ出るまで王子このまま? 俺らどんなSだよ。

「ば、馬鹿な……なぜ僕たちが、こんな……」

王子の真っ黒い指先が不思議に光る足下の岩をひっかく。

「ラムダ、リチャードから出てきて!お願い……!」

王子ぼこぼこにした負い目もあってかシェリアの声が必死だ。このまんま放置はやっぱやばいよな……ラムダが自害するとかはないと思うけど、イカロス待機させとっか。
つ、と目をやった先の岩の上で、イカロスが静かな目で王子を見ていた。

「リチャードとラムダの融合が進みすぎたせいで……分離ができない状態なのかもしれない」
「なんだって……!」

なんだその骨折り損。
膝をついたアスベルの動きを、王子の反転色の目が追った。

「アスベル……君なら僕を止めてくれると思ったよ……」

声がかぶらない。……本人?

「僕は、裏切られるくらいなら誰とも関わりたくない……いや」

ぐるんと仰向けになった王子の声にまたエコーがかかる。

「いっそのこと誰もいなくなってしまえばいい。
みんな……消えてなくなればいい……そう思う一方で、誰かに救ってほしい、わかってほしいと……思っていた」

他力本願だよー、と茶化せる雰囲気はどこにもなかった。
助けはあったはずだった。王子は初めて自分の立場を踏み越えてくる友達を得た。
ああだからこそ贅沢になったのかな。自分の全部を丸投げして預かってくれる人がほしくなったのか。まあ全然贅沢ではないんだけども。肩代わりは無理でも支えてやるとか、そういうことをしてやりたかったし、アスベルもそういうことを苦にしないやつだと思ってたんだけどな。
なんだっけあの王子のおじさん、タイミング悪いのは昔からなのか。

「君と争う一方で……君に助けてほしいと、願うなんて……」
「俺はお前の友達だ……!どんなに争っても、俺はお前を見捨てない!
見捨てられる……もんか……!」

……やばいかもしれない。王子が喋るのを聞きながら俺は眉を寄せる。片手でイカロスを招いた。声が出しにくそうだ。そういえば俺さっき王子の喉撃ったわー……召喚器の魔力弾が物理的なダメージが皆無だからって、麻痺くらいは残るかもしれない。

「アスベル、君は、こんな僕を……まだ友と呼ぶのか?」

アスベルの返答はなかった。うんいいよねこの何もいわなくても全部通じちゃう信頼関係。俺がどんだけ特捜隊の愚者と魔術師コンビが羨ましかったか。

「ありがとう、アスベル。
……だが僕は……気付くのが少し遅かったようだ」

倒れた王子の横にイカロスが膝をつくと、ゆっくり手を上げて制された。腕上げるのもきついはずなのに。何考えてんの王子。


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