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壊したいのは何だっけ
本当にすごいものを目の前にすると、人間何も言えなくなるらしい。
足がすくむ。口が開く。何度妙なことに巻き込まれたり見たり聞いたりしても、あっさりととんでもないものがでんと目の前に置かれたりする。

「……そういう意味ではラムダに感謝してもいい」

───偽善者、臆病者、まだ迷うの?

俺の中でイカロスが嗤う。

「それとこれとは別。でもこれはほんとに、すごいよ」

何色もの帯に縁取られた光の塊。この星の中心にある、核と呼ばれるもの。

「いやでもここ地底何キロ? なんで無事なの俺ら」

───ゲームのご都合主義かソフィの加護だろ

「イカロスそれ言っちゃダメだから」

ふと疑問に思って呟くと、イカロスからミもフタもない返答があった。
釘を刺して改めて見直すと、紫色が多いのに気付く。中心の魔王陛下が伏せていた(こいつ超まつげ長いの!)目を開けて、ぎっとこっちを睨んだ。
王子。

「アスベル……いい加減にしろ。僕たちの邪魔をするな!」

うわ一気に緊張ほぐれた。変わんねえわこいつ、どんだけアスベル好きなの王子。ばくしょー。

───へぇ知らなかった緊張してたのか

「いやぶっちゃけしてねぇけど」

こうさ、バトルもので目の前に立つだけで相手の力量が分かるとかあるじゃん。俺あれできたことねぇの。だからぶっちゃけ王子が今どれくらい強いのか知らない。
俺が知ってるのはこいつらが負けないってことだけ。これがゲームだからじゃなくて、こいつらが負けないってことだけ。

───勝利がイコール負けないこと、それが成り立たないことを果たしてあの馬鹿どもが理解しているかいないか

くくっとイカロスが嗤う。さりげ俺も含まれている気がします。

「よせリチャード! お前はラムダが何をしようとしているかわかっているのか!」

アスベルが一歩出て叫ぶ。みんなが仕方ないなぁって顔をした。まぁこれがアスベルだよね。まっすぐで不器用で愚直な。どうしてもわかってくれない相手にも声をかけずにいられないような。
そして案の定、王子は中空でにぃ、と嗤う。

「当然だろう。ラムダの意志は僕の意志、ラムダの希望は僕の希望だ。
もうすぐ僕たちは、この世界そのものになる。僕たちの理想そのものに!」

今にも大声で笑いだしそうに言った王子(ラムダ)は、どうしようもなく一人に見えた。


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