無気力症(?)
ガルディアシャフトの一角に置き去りにされたヒューマノイドを、俺はしばらく眺めていた。
───置いていかれるぜ
「ん……」
役目を果たしたその後で、動きを止めた機械人形。
「……俺もこうなるのかな」
このお話が終わった後で、世界の片隅に置いてきぼりにされるんだろうか。
───それはねぇな
「イカロス?」
苦虫を噛み潰したような声だった。
───気付いてるか?
───お前、今物語の終わりを見る気ねぇぜ
「……マジでか」
わお。意外と繊細だわ俺。これで終わりかと思ったら途端にやる気なくしてるよ。
───定めた役割もこなせねぇならプログラム通りに働く機械以下だな
「ソウデスネー」
っつったってどーしろってんだ、そんな簡単にモチベーション上がらねぇぜ?
───自分で考えろ、ばーか
言い置いて、ふっとイカロスは沈黙した。
「……駄目だー落ち込むー」
どうしよっかなー、と呟きながら、俺はいつの間にか開いていたみんなとの距離を縮めるべく走り出した。
次はエフィネアへ降りてからのラムダの記憶だった。
ソフィと戦って倒れたラムダ、その後映った暗がりに、金色が鈍く光った。
『う……うぅ……』
ここ……城の地下!
七年前、俺が何もできずに消えた後。アスベルたちが運び出される前。目を覚ました王子は、それでも体調が悪そうだった。
『いつかは、僕にも毒をと……思っては……いた、けど……まさかこんなに……早く……』
あの時点ですでに一服盛ってたのかよ! どんだけだ叔父さん!
『死にたくない……死にたくないよ……』
明かりの足りない地下でも、王子の優しいオーク色の目が、涙でにじむのが見えるようだった。
暗がりの中空が歪んだ。
『な、なんだ……?』
………生きる
『え……?』
……生きる……のだ!
ぶつり、
映像は唐突に途切れた。
「……イカロスてめえマジ好き勝手言ってくれて……」
甘言だのなんだの関係ねぇじゃん。むしろ恩人なんだけど。ありがとうございますおかげさまで王子無駄に美形に育ちました。うらやましくなんかないやい。
「……ラムダはただ、生きることに執着しているように見えた……」
「ただ……生きたいだけ……」
若干ネジぶっ飛んだ感じのこと考えてる俺と違って、周りはなんだか暗かった。緊張感ねぇなちくしょう。
ていうかやめてソレ、マジあや先輩思い出して凹むんだけど。
あの人をどうにかして人として生かしてあげたかった。
でもあの人はどうやっても人間の敵だった。
なにこれハリネズミのジレンマ?
「ラムダの気配が強まってる。おそらくそう遠くない所にいるはず」
「いよいよだな」
「よし。このまま一気にラムダの所まで行きましょう」
どこか頼りない表情で考え込むアスベルを見て、親近感なんて持った俺は本気で頭の中身総ざらえした方がいいかもしれない。
アスベルに死ぬ気はない。覚悟を決めることと命を捨てることは違う。
生きるつもりのない俺がアスベルと似ているなんて、そんなこと。
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